京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<篠原雅武特定准教授>

篠原雅武と申します。2019年4月から思修館の一員になり、気づいたら5年になろうとしています。前にコラムを書いてから2年になろうとしていますが、引き続き、哲学を中心としつつ、人新世という時代における人間存在の条件の理論的明確化のために、アーティストとの議論を重ねるなど、他分野との連携で研究をおこなっています。その間、気候変動や海面上昇、さらにはコロナウイルスパンデミックというエコロジカルな変動状況との関連で人間存在の条件を考え直すために、チャクラバルティやモートンの著作の読解を行いながら考察を進めてきました。2022年9月には、ティモシー・モートン『ヒューマンカインド』の翻訳を岩波書店より刊行し、さらに2023年末か2024年初頭にはディペッシュ・チャクラバルティ『一つの惑星、多数の世界』の翻訳を人文書院より刊行する予定です。また、日本語で出した単著『人新世の哲学』と『人間以後の哲学』が韓国語に訳されたこともあって、2023年には釜山大学で行われた韓国教育思想学会夏学術大会で講演を行いました。さらに、日本建築学会では、「人新世の哲学研究」の立場から、建築家やプランナーと一緒にシンポジウムや研究会で口頭発表を行うなどして、人文科学と理工系の学問分野の交流活動に貢献しました。また、2020年からは写真家の川内倫子さんとの交流のなか、展覧会のレヴューを書き、さらに彼女の写真集『Illuminance』のための解説文を日英二つの言語で書きましたが、その後も、川内さんが東京オペラシティアートギャラリーで行った展示に合わせて刊行した図録『M/E』のための解説文を日英二つの言語で書きました。それ以外にも、2022年に東京藝術大学で行われた「新しいアートとエコロジー」展に共同キュレーターとして関わり、あるいは2023年1月下旬にはロームシアター主催のトークイベントでアーティストである百瀬文と対談するなど、国外の学者・アーティストとも交流をおこなってきました。教育に関しては講義「人新世の哲学」を大学院横断科目として続けてきました。幸いなことに、思修館だけでなく、文学研究科、工学研究科、人間・環境学研究科、農学研究科、ASAFASといった様々な部局の大学院生が集ってくれたこともあり、授業そのものが学際的な交流の場になりました。授業参加者同士が読書会を自主的に行う機会となりましたが、その読書会を通じて、さらに受講生が来てくれるという好循環が生まれています。授業では、気候危機のもとで生きていくうえで何が大切か、他者との共存の条件を哲学的に考えるとしたらそれはどのようなものとして考えうるかということを考えてきたつもりです。今後も、この視点のために求められる哲学的思考や学際的発想をみなさんがそれぞれ高めるための機会となることができるよう手助けしたいと考えていますが、のみならず、総合生存学は、人類が直面する多様な課題に対し、様々な分野の学問の知見を結集して、その解決策を探るものであるということを念頭におき、かかる理念を達成するための必要条件とされる他部局との交流をさらに重視していきたいと考えています。


今年釜山で講演したあと街を散歩した時(真ん中が篠原雅武特定准教授)

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