今日は。篠原雅武と申します。2019年4月から思修館の一員になり、気づいたら三年経っていました。以来、哲学を中心としつつ、人間存在の条件の空間性の明確化のために、建築家やアーティストとの議論を重ねるなど、他分野との連携で研究をおこなっています。その間、気候変動や海面上昇、さらにはコロナウイルスパンデミックというエコロジカルな変動状況との関連で人間存在の条件を考え直すために、チャクラバルティやモートンの著作の読解を行いながら考察を進めてきましたが、その成果の一つとして、2020年8月には『「人間以後」の哲学』という著書を講談社選書メチエの一冊として刊行しました。さらに劇作家の岡田利規さんとの対談を行ってその作品『消しゴム山』(2019年10月に京都ロームシアターにて初演)の構想に貢献するといったことを経てきました。岡田さんとの交流はその後も続き、次の年の映像作品「消しゴム石」との関連で、彼の小説「消しゴム石」についての批評文を書き、これが『群像』(2021年1月号)に掲載されました。また、11月に行った国際シンポジウム「ポスト人新世における生存の未来」でベンジャミン・ブラットンを招いて講演をお願いしましたが、それ以外にも、2021年10月下旬には十和田市現代美術館とゲーテ・インスティチュート主催のオンライントークイベントでベルリン在住のアーティストであるトマス・サラセーノと対談するなど、国外の学者・アーティストとも交流をおこなってきました。また2020年からは写真家の川内倫子さんとの交流のなか、展覧会のレヴューを書き、さらに彼女の写真集『Illuminance』のための解説文を日英二つの言語で書きました。また教育に関しては講義「人新世の哲学」を大学院横断科目として開講し、二年間行いました。幸いなことに、思修館だけでなく、文学研究科、工学研究科、人間・環境学研究科、生命科学研究科といった様々な部局の大学院生が集ってくれたこともあり、授業そのものが学際的な交流の場になりまして、参加者同士が読書会を自主的に行う機会ともなりました。授業では、気候危機のもとで生きていくうえで何が大切か、他者との共存の条件を哲学的に考えるとしたらそれはどのようなものとして考えうるかということを考えてきたつもりですが、これも思修館で目指される「総合生存学」では、「誰もが共感できる優先順位を決める「人間学的視点」」が要件とされていることに応答するものになったと思います。今後も、この視点のために求められる哲学的思考や学際的発想をみなさんがそれぞれ高めるための機会となることができるよう手助けしたいと考えています。


チェルフィッチュの映像作品「消しゴム石」の様子