京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<趙亮准教授>

2023年8月と10月にフィールドワークで学生と一緒に京都の北にある美山町という農村地域に行きました。近くに京大芦生研究林があって自然豊かな町でした(写真1、2)。世界遺産の白川郷に比べても遜色のないかやぶきの里(写真3)は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。

美山町は、「暮らすように旅する」ことをモットーに、過度な商用化を避け、旅行客も住民と一緒に「自然とともに生きよう」という姿勢が特徴的です。オーバーツーリズム気味の白川郷より観光客が断然少なくてのんびり自然と人間の共存を満喫できます。近年、持続可能観光の開発を積極的に進め、2021年にはUNWTO(国連世界観光機関)の Best Tourism Village に認定されました(因みに日本はたった2地域が認定されました。もう一つは北海道ニセコ町)。1月末前後の雪灯廊は、幻想的な演出の人気が高く、海外からも観光客が多数訪れるイベントになっています(2024年1月15日までサポーター募集中だそうです)。

そんな元気のよい美山町ですが、実は日本のほかの農村地域と同じ、少子高齢化や過疎化、人口減などの進行が深刻です。その象徴として、地方公共団体としての美山町は2006年に消滅し、周辺3町と合併して南丹市となりました。電車がなく、バスも少なく、自家用車がないと交通が不便。診療所も一つのみで、大きな病院は30キロ以上離れています。地元の子供たちは、町への愛着が高いものの、教育や仕事のためにほとんど高校から地元を離れていきます。一部戻ってくる人や移住者もいますが、町全体の人口は毎年約100人減っています。現在約4千人が住んでおり、そんななか、70代がむしろ若い世代に分類されます。このままではあと30年ぐらいで町が消滅するでしょう。これでも、町の振興を地元の方がいままでのように一生懸命努力すると仮定した結果です。それがなければ消滅がさらに早まるでしょう。

一体、なぜこうなった(なる)のでしょうか。生命の特徴として秩序の向上があり、高度な都市化がその象徴と考えられます。従って、農村地域の凋落や消滅は、歴史の流れに反しないのです(趙の情報智慧論で詳しく考えています)。

しかし、別の視点があります。秩序の向上は、同時に脆弱性も意味します。作物の単一化は気候変動や病気などに弱い(例:ジャガイモ飢饉)し、人間社会も多様でなければならない。多様性の意味は、ほかの選択肢を提供することによって系全体の頑丈さが維持されることにあります。いま日本の都市化は、本当にそれでよいのか、未来からやってきた人以外、だれにもわからないのです。急激な都市化をやめて、多極化や過疎地域のことにも耳を傾けて、みんなで一緒に考えるべきです。

残念ながら、いま日本の現状は、東京一極集中になっており、人口の少ない地域を考えてくれる代表(国会議員)が少なすぎます。これを断言するのは、我々の研究によると、法律が定めている比例代表制(=代表の数が人口に比例すること)という根本的な問題があるからです。比例代表制は、平等の観点から生まれた理論ですが、式「代表数÷人口」で個人の重み(=貢献度)を計算して、選挙区間に差が出ないように要求します。この計算式は、230年以上にわたって疑われることがありませんでしたが、最近我々がそれに対する問題提起と新しい理論である「非線形代表理論」の提案を行いました。

その背景には、半世紀前からL. Penrose (2020年ノーベル物理学賞のR. Penroseの父)や R. Taagepera (2008年に政治科学のノーベル賞といわれるJohn Skytte Prize in Politics Scienceを受賞)、G Stigler (1982年ノーベル経済学賞) らの先駆的研究によって徐々に明らかになった、「適切な代表の数は人口に比例しない」現象があります。我々もその現象を説明するソーシャルネットワークのモデルを示しています (Zhao & Peng, 2020)。それを踏まえて、我々は、式「代表数÷人口」では正しく一人の重みを計算できないことを示しました(Zhao, Tanimoto, Lyu, 2022)。正確にいうと、「代表数÷人口」で一人の重みを計算する比例代表制では、人口の多い地域にとって有利な議席配分になっています。当然、農村地域(正確には人口の少ない地域)を代表する議員の数は、必要な数より少なくなっています。

このことを是正すべく、我々は7年間の準備を経て2023年から「非線形代表理論」を提唱し、正しく一人の重みを計算する式を示しています。最近では、非線形代表制度を模索しているEU議会の議席配分を分析した論文がMDPI Mathematics (Q1) に採用されました (Lyu, Zhao, 2023)。今後、平等という観点から、農村地域や海外など、人口の少ない地域の代表状況の改善を指導する理論を、学生と一緒に、30年以内に確立させていく予定です。

 
写真1、2


写真3

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