京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<牧野耕司特定教授>



ガーナの友人の結婚式にて

 総合生存学館特定教授の牧野耕司です。これまで34年間、JICA(国際協力機構)で国際協力に携わってきました。直近の在外勤務は、チョコレートで有名なアフリカのガーナでしたが、青年海外協力隊員がなんと100人もいました。彼/彼女らによくきかれたのが、「どうすれば現地で成功できるのか秘訣を教えてくれ」でした。私の回答は、「そんなマジックがあるわけないでしょ」。でも、それではあまりにもすげないので、「秘訣はわからないけど、仕事がうまくいっている人の共通点は、例えばよく食べることと柔軟性があること」と付け加えていました。よく食べることはもちろん肉体的な健康につながるのですが、途上国の道端では日本人はよく声がかけられ、食事やお茶に誘われる機会が多い。それを疎んじることなく地元住民の懐に入って、食事をしながら文化や風習を知りかつ語学も磨くことが仕事に役立つのでしょう。柔軟性は日本の価値を押し付けることなく、自分を変えるということです。結構、学生、教員の皆さんにも参考になるのではありませんか。
 さて自己紹介の続きです。時代と国際協力の変遷の中で、私は①研究、②政策・制度形成、③フィールドでの実践という、相関する3つの軸からなるトライアングルを大切にしてきました。すなわち、研究により専門的学識を深め、それを政策・制度・予算の形成に結びつけ、最終的に途上国というフィールドで具体的なプログラム・プロジェクトとして実践してくという相互に関連するトライアングルです。①では研究部門に8年、②では企画部という戦略部門に10年、そして③ではアフリカの3つの事務所や経済開発部をはじめ10年以上経験をしました。専門は、国際協力、人間の安全保障、開発経済学です。
 総合生存学館では、質の高い研究を行い発表するのみならず、それを世の中の政策や実践に結びつけることが求められています。では政策を形成するっていったいどうやるんでしょう?ODA(政府開発援助)の世界で、アフリカのCARDというコメ生産倍増イニシアティブ(政策)に関わった経験を申し上げます。最近はアフリカの人たちはお米をよく食べます。しかし作る以上に食べるので、大量のコメをアジアから輸入して虎の子の外貨を消費するので経済問題になっています。そこで2008年から10年間で、アフリカのコメ生産を2倍にする政策を打ちだしました。私を含むJICAが政策形成をやったのですが、指標や開発アプローチは研究から導き、政策案の段階から入念に外務省や財務省、農水省、多くの政治家に根回しを行いました。またJICAだけでは限界があるので、世界銀行やFAOなど10の国際機関とタッグを組みつつ、アフリカ23か国を対象とした支援を行ったのです。その結果、10年間でコメ生産倍増を達成し、その後第2フェーズに入っています。政策形成とその実践は口でいうほど易しくはありませんが、ダイナミックで面白いですよ。他にもいろいろ政策形成に関わっているので、関心のある人は声をかけてください。
 総合生存学館の複合型研究会の一つである、国際開発研究会を主宰しています。パンデミックや気候変動、軍事的緊張など複合的危機の真っただ中で、平和で安全な社会の実現や、複数の脅威に対する分野横断的対応、分断に対するパートナーシップの強化など、国際開発の重要性はますます高まってます。本研究会では、参加学生の関心や研究テーマに沿って、開発に関わる問題・課題を広く自由に議論しています。「アフリカン・ファッションと京都西陣織から国際開発を考える」なんていう面白いテーマも取り上げています。関心ある学生、歓迎します。

 
 
 

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