京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<鍋田肇特定教授>

皆さん、こんにちは。2021年4月からGSAISで働いている鍋田肇です。本来は国際協力機構(JICA)の職員で、出向という形式で京都大学へ来ています。
 GSAISは世界が直面する課題の解決に向け世界で活躍できるリーダーを育てる大学院と理解しています。ここに来て、色々なユニークな学生に会えたことで、私の視野も広がっている実感があります。
 世界が直面する課題と言うと、国連の持続的開発目標(SDGs)が思い浮かびますし、貧困問題や環境の悪化、誰もが受けるべき教育や基本的な保健サービスが行き届かない問題などあり、アジアやアフリカの多くの地域で目立つ課題です。勿論、先進国と言われる地域が大量の物資やエネルギーを消費するので起きている側面があり、日本で暮らす我々の問題ですから、私自身の生活様式も徐々に変えています。地域紛争は私たちが天然資源を買う輸入先でも沢山起きていて、私たちの経済や社会生活と直接繋がっています(原因を作っていると言える面があります)。アフガニスタンの今後の方向性もとても難しくなっていて、私たちが次に何をすべきか、ずっと注視し考えないといけないです。
 JICAでは農業・食料安全保障分野の仕事をして来ました。若い頃にはバングラデシュの農協職員をしたことがあります(左下の写真はバングラの農協の年次総会です。右下は村の女性グループとの小規模養鶏です)。日本の農協職員もしました。GSAISでは、以前、学館のプログラムで学生をバングラデシュへ派遣していましたので、私の経験が使えるかも知れないと思いました。今はバングラデシュの治安上の問題で、なかなか行けない国になり、残念です。豊富ではありませんが私のアジア・アフリカの経験を使ってGSAIS生がアジアやアフリカへ出て行く場合のお手伝いができたらいいとの思いでここに来ましたが、コロナの影響で余りお役に立てていないのが寂しいところです。GSAISの新入生が世界を考える活動として、今年は(武田先生のコラムにもありますが)ラオスの社会問題を考えるプログラムが動いています(オンライン方式ですけど)。

 
 

(左)バングラデシュの農協の同僚です(1986)。当時は戒厳令下でしたが治安は大変安定していました。
(右)バングラデシュの農協では、女性組合の方たちがマイクロクレジットで始める小規模養鶏のパイロット事業を彼女らと一緒にやっていました。私は20代でした。

 

 パキスタンに駐在したのは2007年~2010年ですが、とてもテロ事件が多い時期でした。ニュースを追う限り隣のアフガニスタンより件数は多い感じでした。JICA駐在員としての私の役割は、安全対策、JICA-JBIC統合の現場レベルの調整、統合に伴うナショナルスタッフの人事労務、事務所全体の経理・総務の統括でしたが、関係者数も多かったので、安全対策は一番大事な仕事でした。安全対策では、若い駐在員と一緒にパキスタン陸軍の元中尉である安全対策アドバイザーと日々の情報分析をするのですが、どの場所がハイリスクで、どの日時が危ないというような方程式がとてもよく当たりました。(右下の写真は2008年9月20日に私の自宅から約200mのマリオットホテルで起きたテロの現場です。翌日でもまだ煙が出ていました。)GSAISの学生が海外武者修行などに行く前、渡航先の安全情報をよく分析するよう可能な範囲でお願いしています(外国人がよく出入りするホテルはハイリスクと言われていたし、爆発は二段階で行われ、一段階目の爆発は車止めの破壊を目的とされていたようです。文字通りプロによる準備周到なテロです)。

 
 

(左)パキスタンのアボタバードという町で(2008)。村では身体的な障害を持つ方が家にこもる傾向があるので、リーダーシップ研修を政府が行い横のつながりを作っていました。
(右)パキスタンの頃、自宅近くのマリオットホテルが大規模テロにあいました(2008)。学生がアジアやアフリカなどへ行く際、感染症対策だけではなく安全対策を講じて行く必要があります。

 

 パキスタンはインドとの長年の紛争があるほか、ソ連のアフガン侵攻(1979)の時代からパキスタンとアフガニスタンの共通民族による共闘関係もあって関係が深いこともあり、アフガニスタンの不安定(特に対テロ戦争とその後の紛争)が隣国パキスタンへ直ぐに影響します。そのためアフ・パキ国境地帯は行くのが難しく、日本の二国間協力のプロジェクトは余りありませんでした(本当はその地域こそ国際的な支援を必要としているので(所謂貧困状態が広く見られます)、治安を理由に国境地域への支援を躊躇したことは反省しています)。左上の写真は、アフガン国境ではないですが、北西部に位置するアボタバードを中心に行われていた障害者の自立支援(というかリーダーシップトレーニング)プロジェクトのセミナーに集まった人々です。日本の二国間協力は円借款によるインフラ整備が現地の新聞などでよく報道されるので経済開発が中心に見えますが(実際にもそうだと思いますが)、このような社会的弱者の能力に焦点を当てる協力関係も特徴的だと思います(現場で活躍していた日本のエキスパートはウルドゥー語で普通にコミュニケーションしていました)。GSAISの学生が武者修行などでアボタバードや他のパキスタンの街を訪問する可能性は、今の治安状態から、高くないのですが、この地域出身の学生が留学生として来ていることは嬉しいことです(2010年の北部での洪水緊急支援のことを覚えているそうです)。
 GSAISの学生でアフリカでの武者修行を実施する学生は多くないですが、計画を立てている学生は何人もいます。エチオピアやマラウィなどへの渡航可能性を考えているようです。ただコロナ禍の影響があり、外国人の入国を厳しく制限している政府もあるので、学生の希望とは裏腹になかなか実現しないのが実情です(エチオピアでは現政権と北部のグループとの間で内戦が始まってしまっています)。

 
 

(左)セネガルの村では若者が町へ行くので若者が減っています。食事には木を薪として使うので木も減ります。エコビレッジ庁はそれに対応する事業を計画していました。村の夕飯の支度中です。
(右)アンゴラはコメの輸出国でしたが、長い内戦で農業も農村も大きく壊されました。市場でタイ産のコメが売られているので、国内でも作って売れるはずです。コメ生産者のアントニオさんです。

 

 GSAISの学生が行く可能性の高い国とは言えませんが、セネガルのエコビレッジ庁という機関が実施していた事業に関わる機会がありました(2012)。セネガルは雨が少ない国ですが(日本と比べ)、遊牧による生計も若者にはポピュラーでなく、耕種農業も条件が悪いので、若者が都市へ行ってしまう、更にはフランス等へ出てしまう、というのが悩みだそうです。農村に魅力がなくなっていること、環境が悪化し人口が減って村の存続も将来は危惧されるということで、政府はエコビレッジという計画を進めていました。日本からの二国間支援を求めていましたが、全村にソーラー発電システムを配布したいとか、全村でバイオガスシステムを導入したいなど、なかなか現実には難しいアイデアが満載でした(笑)。(大統領選が近づいていたので、大統領は選挙を視野に全村への「援助」を模索したのかも知れないです…。)村の人へのインタビューや政府機関とのミーティングを重ねた結果、村の人々が自分で頑張れるような仕組みが大事という合意になり、甲子園の高校野球のような全国の村が参加できるプログラムにすること、それにはエコビレッジのポイント獲得等により村々が「優勝」を目指すような活動を入れることとなりました(政府支援は財政的にも小さいが、村人が頑張れば村を持続できるという考え方)。
 マングローブ林のある海の近くの村に泊めて頂いた夜、隣の家を覗いたら(12時頃)、ご家族が外でテレビを観ていました(電気は太陽光発電し車のバッテリーに蓄電)。大人たちは一生懸命に衛星放送のフランスのメロドラマを観ていましたが、子供たちは飽きてしまっていて、私に向かって手を振ってくれました(左下の写真)。一家団欒の時間は、日本では減っているのでは、と思うと、さびれて困る、というセネガルの村の方が日本の村より幸せが多いかも、と思ったものです。(左上の写真は、エコビレッジ庁の方に案内して頂いた別の村です。夕食準備が始まっていて、子供たちが木の杵と臼でヒエかアワをついていました。右上は、アンゴラの農家の方で、アントニオさんと言います。コメも栽培されていましたが、スズメが多くを食べていたようです。家族が20人以上で大方は子ども。きっと奥さんも何人かおいでかと。)

 
 

(左)セネガルの村(海の近く)に泊めて頂いた。隣の家では夜中に家族でフランスのテレビ番組を観ていた。恋愛もののようでした。子供たちは興味がないらしいです。
(右)カブールの保健省の敷地内です。職員のための保育所が設置されていました。乾燥がちの土地柄なためか、バラがきれいに咲いていて、子供たちの雰囲気とマッチしていました。

 

 右上の写真は、アフガニスタンの首都であるカブールの保健省の敷地内です。パキスタンから訪問した私たちは、JICAカブールの安全対策ルールに従い防弾車で街中を移動したのですが(外国人は目立つので)、保健省の中に職員の為の保育所が設置されており子どもが遊んでいる光景を見て、少し安心したのと、重要なことだな、と思いました(日本でも昔は職場に子どもを連れて行く光景は普通でした)。
 GSAIS学生にとり、海外との関係はとても重要なので(特にアジア・アフリカ。勿論、ラテンアメリカや中近東も)、最近は、学生の要望もあって、人道支援の現場(南スーダン、アフガン、ヨルダン)で活躍されてきた専門家(NGOの方)にボランティアでオンライン登場して頂き、現場経験をシェアして頂くようなイベントを開催しています(NGOの方の業務終了後ですので夜の開催となり、オンライン飲み会なのか勉強会なのか分からないスタイルでやっています)。今後も、GSAISと世界を繋ぐ方法を引き続き模索して行きます。(本当はコロナ禍がなければもっと自由に行けるのですが。京都市内の学校と連携して外国籍児童の学習支援をする可能性なども小学校などと協力して考えているところです。)

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