京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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ニュース 修了生らが設立した一般社団法人「総合生存学インパクトセンター(AISIMAS)」について、理事の横山泰三さんにインタビューしました。

一般社団法人 総合生存学インパクトセンター(AISIMAS)インタビュー
対話を通じて人をつなぎ社会課題に取り組む―AISIMAS理事 横山泰三さん―



率直にAISIMASの課題や夢を語る
ラオス在住の研究者でもある横山
泰三さん=Zoom画面のキャプチャ

総合生存学インパクトセンター、通称AISIMAS(アイシマス)は、2020年8月に総合生存学館(思修館)の修了生・在学生4名が立ち上げた一般社団法人だ。今回は理事の一人、横山泰三さんにお話を伺った。横山さんは民間企業勤務を経て、起業。その事業も続けながら大学院へ進学して、2018年に学位を取得した。
 
横山さんが博士論文を執筆していた頃、思修館の後輩、田中勇伍さん、夫津木廣大さんと総合生存学とは何か議論を続けた時期があった。そのとき、田中さんが三角形の図を使った説明を思いついた。三つの頂点は、市民(当事者)とアカデミア(学術)と行政(政策)を表す。「総合生存学の実践には三つの異なる方向性、立場を持った方々との対話が必要になる。研究の方法として、三つの観点から社会課題を見つめることが重要じゃないかって話してたんです」。横山さん、続いて田中さんがこのアイデアを博士論文に取り込んで、考えを深めていった。「総合生存学は研究機関としては京都大学に思修館がすでにある、そして国連などでポリシーアナリストとして政策に関わる関係者もいる、けれど市民の側に寄り添った実践はまだなかったと気づきました」。「市民の人たちを含んだ総合生存学を実践していきたい」と、田中さんが呼びかけ人になってAISIMASが立ち上げられた。現在、田中さん(代表理事)、横山さん(理事)、夫津木さん(理事)に加え、思修館に在学中の徐聡さんの4名で活動している。
 
AISIMASが市民、アカデミア、行政の三者をつなぐ方法として重視しているのが「対話」だ。AISIMASのメンバーはそれぞれ専門分野を持ち、別の活動も行っている。その専門知識、経験を持ち寄って、「対話」を考え、実践している。ここでは横山さんの物語をたどってみたい。
 
横山さんは西田幾多郎を専門とする日本哲学の研究者でもある。現代社会が抱える課題から西田哲学に光を当てたときに浮かび上がる一つが、「自分とまったく違う他者に出会ったときに、自分が創造されていく」という発想だ。横山さんは自分と他者を媒介するものとして対話を想定した。「対話を使いながら人がどうすれば主体的になっていくか、主体的に仕事したり、主体的に勉強したり、主体的に自分の生活問題を解決したりしていくかっていう研究を大学院でしてたんです」。研究対象はセルフヘルプグループ。そこにまったく異なる新しい人や新しい話題が入っていくとグループに創造的な発展が起こる。その発展の仕方と対話の関係についてのヨーロッパ、アメリカ、アジアに渡る8か国の共同研究を主催し、どんなステップを踏めばセルフヘルプグループが発展していくか法則性をまとめていた。
 
そこで訪れたのが、4年次の海外武者修行で国連開発計画(UNDP)カンボジアでインターンをしていた時に、参加した国際会議で隣の席に座った国際労働機関(ILO)バンコクのスタッフとの出会いだった。雑談するなかで、日本の厚生労働省とILOバンコクが共同開発したCommunity-Based Enterprise Development(C-BED)というプログラムに話が及んだ。これに興味を持った横山さんは、ちょうどProject Based Research(PBR)としてカンボジアでシンポジウムを開こうと企画中でもあった。厚生労働省とILOバンコクの開発担当者に声をかけたところ、二人とも、それぞれ日本とバンコクから快くカンボジアのプノンペンまで飛行機で来てくれた。
 
「C-BEDのコンセプトはすでにあったんです。先生がいないなかで、参加者の「対話」だけでいかに人を主体的に起業家にするかっていうプログラムです。当時の開発者は具体的なステップの開発で悩まれていたので、研究でこういうことがわかってるから、ワークを作るときにはこういう順番でとか、こういう項目で対話するとみんなやる気が出てくるのではとかやり取りをしまして」。そこからできた縁でC-BEDの開発に横山さんが加わり、さらにILOを海外武者修行先に選んだ徐さんも同プロジェクトに加わり、AISIMAS設立後はAISIMASとしてILOバンコクと連携してきた。昨年度からバングラデシュと日本で民間企業の協力を得ながらプログラムを実施し、ラオスでも展開を始めている。
 
青写真を持たない対話として方法論からC-BEDを捉えると、その応用の可能性が広がる。昨年度のAISIMASの取り組みには、多文化共生や持続可能な地域社会をテーマとしたものもあり、ここにも対話という方法論が生かされた。前者では、大阪市市民局をはじめとする行政の担当機関や政策支援を担当する大阪市国際交流センターなど、研究者である大阪成蹊大学の教員と大学院生、当事者の外国人団体らが、取り組みや現状の情報交換により問題構造を浮き彫りにし、理想状態のイメージの共有を図り、その実現に向けて協働して取り組む道筋を考えた。AISIMASはその対話と提言の取りまとめのサポートはもちろん、文献、ヒアリング、アンケート調査の実施、弁護士による講演会の開催など多角的に支援を行った。
 
順調に活動しているようにみえるAISIMASだが、悩みもあるという。市民、アカデミア、行政の三者の対話を大切にしようというのは、どこか一つのカテゴリーの文化に同化できないということでもある。たとえば、課題解決のために総合的な視点の必要性を訴えても、専門性を重視する従来のアカデミアの立場から受け入れられないこともある。でも、希望は捨てていない。「専門的な研究が悪いわけじゃなくて、新しい視点を得たらある意味で専門研究もより専門として深まる。専門と総合という考え方は対立するものじゃなくて、お互い高め合っていくと思うんです」。また、三者間はそれだけで明確な区分があるのではなく、それぞれの頂点からグラデーションを持ってさまざまなアクターが分布しているのかもしれない。この三角形を総合化する意識を共有できる人同士の対話こそ、これからAISIMASが仕掛けていくべき取り組みではないか、とそんなふうにメンバーと話し合っている。
 
AISIMASの次の課題は、対話のステップを外部に向けて提案できるかたちに言語化してまとめていくこと。いままでばらばらだった三者が集まり、それぞれが問題提起をして、共通の目的を捉える。これまでの活動を通じてわかってきたそのステップを発信したいと考えている。そうやってAISIMASの方法を具体化すれば、メンバーを増やして活動の幅を広げられる。「悩んでいる部分を研ぎ澄ましたあとは、周りの目を気にせず思い切って提示して、実践して証明してみようと思ってるんです」。

 

聞き手 小泉都、2021年8月24日インタビュー

 

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