本稿を執筆している今、東一条館の研究室の窓の外からは喧しいセミの鳴き声と、蒸すような炎天下を元気に走り回る子供たちの明るい声が聞こえます。そんなサウンドスケープを聞いていると、ああ日本に、思修館に帰ってきたな、という実感が改めて湧いてきて何だか嬉しい気分になります。
 
こんにちは。京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定准教授の武田秀太郎(たけだ しゅうたろう)です。エネルギーを中心としたサステナビリティ学に実証的内容を持たせ、数理的手法により仮説検証を行う学問である「計量サステナビリティ学」を専門にしています。2021年3月、前職である国際原子力機関(IAEA)ウィーン本部での核融合プログラム准担当官のポストを離職し、思修館に着任しました。7年前、一学生として思修館に入学した者として、こうしてOBとして教育に回ることが出来たことは望外の幸せです。

IAEA本部で発表する武田秀太郎特定准教授

私は京都大学工学部を卒業後、2014年に第3期生(定員20名でフル募集をかけた最初の代)として思修館に入学しました。個性溢れる同期達とアカデミアの門を叩いた時、現在の建物は完成しておらず近衛館に間借りをしていたことを懐かしく思い出します。合宿型研修施設はまだ廣志房しか落成しておらず、先輩方と1つの建物でギュウギュウに暮らしたものでした。先進的なプログラムゆえ誰も先が見通せない中、研究で不安を紛らわせていたのは私だけでは無かったでしょう。その後、船哲房、東一条館と建物が次々と完成し、新入生もどんどんと入学し、今や堂々たる大学院へと成長した様を改めて見る時、たった7年の事にも関わらず隔世の感を禁じ得ません。今になって、学生同士が昼夜を分かたず切磋琢磨する環境の実現という松本前総長のビジョンの正しさを見る心持ちです。
 
思修館のカリキュラムで何よりも思い出深いのは、バングラデシュで実施された海外サービス・ラーニング(現サービス・ラーニングB)でしょうか。学生の国際的視点および文化・社会習慣の理解促進、ならびに他者を思いやる心と行動力の涵養を目的として2年次の夏に発展途上国でボランティア活動に従事する「海外サービス・ラーニング」は思修館の特徴的プログラムの1つでした。我々は参加型農村開発(PRA)研究プロジェクトのためバングラデシュの農村部に派遣され、各地に六グループに分かれて配置され、村民のもとでホームステイをして二週間を過ごしました。我々はそこで社会インフラの脆弱性、衛生環境に衝撃を受け、にも関わらずその状況を物ともせずにひたむきに生活し、異国の我々にも全く物怖じせずに話しかけてくる現地の人々に、たくましさを感じたものでした。250名を超える村民・議員への聞き取り調査の後に我々が三日三晩徹夜して作成した政策レポートが、その後バングラデシュにおける国家プロジェクトに繋がったと後に知ったとき、この海外サービス・ラーニングが如何に貴重な教育・経験の場であるかを改めて思い知りました。


バングラデシュにおいて、同期生達とともに(上)/現地政府へのプレゼンテーション(下)

こうした思修館の国際的かつ学際的な教育が、私のIAEAでのポスト獲得に繋がったことは疑いがありません。私は2018年に核融合工学分野で博士号を取得、ハーバード大学においてサステナビリティ学修士号を取得し、思修館時代の夢を叶えIAEAウィーン本部に着任しました。現場では、「課題解決情報を、机上ではなくその問題が起きている現場に即して創出し、的確に判断・行動できる高度な専門的能力を身につけた人材」という思修館の理念はがまさに国連で求められる素質そのものであることを度々痛感しました。国際機関を志される方は、自信を持って学館の門を叩いて頂ければと思います。必ず一生の資産となるような友人・同志・戦友と巡り会えることは保証出来ます。


IAEAウィーン本部(上)/私の退職パーティ(下)

私が2021年に帰国し思修館に着任をした時、世界はコロナにより変わった後でした。
コロナ下の教育は万事隔靴掻痒の感がありますが、そうした状況下でも、勤務時間外を使って、たとえリモートであれ思い入れの深いサービス・ラーニングに教員として再び関わることが出来たのは何よりの幸せです。全てが画面越しになる中、「学際研究」という新たな着想が何より重要となる分野でどう繋がりを新たに作っていくのか、これから総合生存学館の教員として改めて模索したいと思います。

コロナ下での1年生とのサービス・ラーニングB(協力:JICAラオス事務所)

現在国際社会は、コロナにより未曾有の危機に瀕しています。無定見な資源エネルギー消費に支えられた人口増と経済成長は早晩限界を迎え、“既に起こった未来”としての資源不足と環境問題への対処こそが正に急務です。この危機を乗り越え、人類がSDGsに体現される持続可能な成長を達成するにあたっては、総合生存学こそがその鍵を握るはずです。
 
そこで私は、数理モデルと実証研究の協働を目指し、日々研究を行っています。そしてサステナビリティ学に実証的内容を持たせ、数理的手法により仮説検証を行う学問である「計量サステナビリティ学〈サステナメトリクス〉」を確立、もってサステナビリティ学を真に分野統合的分野へと発展させることが、学者としての私の目標です。
 
国際機関を目指す皆さん、真のサステナビリティを探求したい皆さん。是非思修館の門を叩いて下さい!