京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<桑島修一郎特定教授>




今年2021年1月に着任しました特定教授の桑島修一郎です。似顔絵は15年も前に知り合いに描いてもらったものですが、まだ通用するだろうと頑張って使っております。
 
昨年までの約10年間、本学の産官学連携本部にて主に企業との連携や公的事業の受託に携わってきました。大学卒業後はよくある大学研究者人生を送っていましたが、2010年から始まった本学と経済産業省との人事交流が大きな転機となりました。経済産業省では産業技術環境局に産業技術政策課(現在は総務課)があり、技術戦略政策官という大層な役職をいただき着任しました。
 
当時、産業技術政策にもオープンイノベーションの波が押し寄せており、イノベーションの概念でさえイマイチ浸透していない時代に、オープンイノベーションというさらによくわからない概念を政策立案に反映させる役割でした。
 
役所の中も常時専門家がいるわけではないので、様々な産業分野を直接所管する原課などから情報を集めて、あーでもない、こーでもないと言いながら何らかの政策パッケージに仕上げていくわけですが、初めて大学教員という人種を受け入れて扱いに困っていたであろう状況が幸いしてか、産業界におけるイノベーションに対する認識を根本的に調べ直すことを許していただきました。
 
ここぞとばかりに様々な観点から企業の本音に踏み込んだ調査をやったわけですが、意外にも役所的にざわついたのは何の変哲もない円グラフ(ものづくり白書2011より)でした。

当時の企業経営は効率とスピードが特に重視され、研究開発であっても3年間ですら長いと言われていました。一方で企業研究者からは嘆きのような話をよく聞かされていましたが。確かに研究開発の期間が短くなることで小粒な成果を量産してしまっては本末転倒ではあるので「まあ次いでに」程度の意識で調べたところ、変化なしも同程度いるにもかかわらず4割以上が短期化しているとの結果を見て「やはり本当だったんだ」となったわけです。
 
さらに2011年は東日本大震災もあり経産省は大混乱だったわけですが、少し落ち着き研究開発事業も動かせる状況になった時には、国としての役割は中長期的な研究開発投資だろうということで、これまで5年間が一般的であったところ10年間のプロジェクトが実現するところを間近に見ることができました。
また、この円グラフは他省庁でもよく利用いただき、つい最近まで国の資料で見かけることがありました。短期間の経験でしたが役人冥利に尽きるとはこのようなことなんだろうと思っています。
 
その後、2012年に大学に戻り産官学連携に本格的に取り組み始めたわけですが、実は文部科学省でも研究開発の中長期ブームが押し寄せており、「センターオブイノベーション(COI)」なる9年間の事業が本学でも動き出します。正確にはその前段の、COI事業が目指す活動を実施できる建物を作る、ところに関与しました。現在時計台の東側にある国際科学イノベーション棟がそれです。
 
ただでも土地のない本学で、新しい建物をしかも好立地に建てることがこれほど大変だとは思わなかったわけですが、当時海外の先進国で流行っていたイノベーション拠点に見劣りしないようなコンセプトとデザインづくりに注力しました。

図は宮野公樹先生(現学際融合教育研究推進センター)と一緒に作った申請用のポンチ絵です。当時別々のものとして扱われるようになったグリーンとライフが大胆にも同居、分断しがちなラボ機能とオフィス機能を地上3階以上の交流エリアで接続、さらには住環境シミュレーション用のモデルハウスや医療用機器などの実証を行う模擬病室までも想定しながら当時は盛り上がっていたわけですが実際はどうなったか・・・。皆さんも機会があれば見学されると良いと思います。
 
最後に、学館の卒業生の中には行政に関係する仕事に就く人も多いと思います。国の政策は複雑なプロセスを経て作られますが、まだまだ多くの意見や考えを取り入れるべき余地はあるし、立案者も出来ることならより多くの知見に触れたいと考えていると思います。ただ、政策の背景までよく理解しておかないと反映させるのは難しい。幸い学館には行政経験豊富な先生も多いのでこっそり政策の裏話など聞かれるのもオススメだと思います。

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