京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<長山浩章教授>

私は1988年に大学卒業後、三菱総合研究所に入社し、途中、エール大学でMBA取得、ケンブリッジ大学で1年間応用経済学部客員研究員(企業派遣)として滞在し、京都大学のエネルギー科学研究科で博士号を取得しました。その後2008年に京都大学に着任し主に留学生への講義を担当し、思修館には2020年10月に着任しました。
 
前職時代は主に大手企業の事業戦略、海外事業戦略構築のコンサルティング、アジア、中南米等で実施された世界銀行、JBIC、NEDO、JETRO、経済産業省、JICA等のODA事業の電力基本計画の作成、電力部門の改編、再生可能エネルギー計画等に携わりました。
 
50か国くらいは様々なコンサル業務で訪問したと思いますが、印象の深かったものを例としてあげると、東南アジアの某国に日本企業が自動車分野で参入するのに、どのような車種で参入すべきかというマーケティング分析だけでなく、その国の自動車産業・部品産業マスタープランを作成しその政策の中に、この日本車メーカ―を位置づけるというプロジェクト、中国では日本政府が行った中国光明工程(中国太陽光発電政策ロードマップ)の策定のための協力プロジェクトで、中国の国家発展計画委員会(当時)や、能源研(エネルギー研究所)のメンバーと、新彊ウイグル自治区、内モンゴル自治区、甘粛省、チベット自治区などにも行き、フィールド調査や各省の計画委員会と討議も行いました。ロシア(サハリン、沿海州、モスクワ、レニングラード)、ウクライナ、中央アジア(ウズベク、キルギス、カザフスタン)などでは3年ほど、現地の中小企業経営者に経営のトレーニングを行いました。世界銀行の仕事では、チュニジアの電力IPP(独立電力事業者)のスキームの審査、中国のクリーンコール事業政策提案、につき現地政府や、欧米コンサル、現地研究機関と業務を行いました。
 
エネルギー分野の業務が多かったですが、中でも、OECD(パリ)の国際会議で電力政策専門家としてプレゼン・質疑応答をした経験が特に印象に残っています。これはOECD輸出信用アレンジメント参加国コンサルテーション会合という審査において、商業性を有し輸出信用の供与が可能であると判断されたプロジェクトに対してはタイド性援助借款を禁止することとなり、当時、日本が支援していたスリランカの水力発電所プロジェクトが同会合において商業性があるとのチャレンジを日本国政府が受けました。これに対し同水力発電所を日本のタイド円借款で提供するために「商業性を有しない」ことを証明するプレゼン・質疑応答が業務でした。OECDなどでの国際会議で出てくる欧米の担当者はその分野で何十年とやっている専門家で同じポジションに長くいて、お互いをよく知り合っています。だいたいは、本会議の前の昼食などで会議の趨勢は大体決まっているような世界で、ぽっと日本から飛んできて、準備してきた主張を論理的に展開したとしても会議での趨勢を覆すのはなかなか難しいと感じました。

 

インドのオリッサ州の無電化村を現地のNGOと調査した時の様子

 
 

ロシアで中小企業家に経営の研修を行っている様子

 
 

中国で再生可能エネルギーマスタープランについて現地政府と討議している様子

 

2008年に京都大学に奉職後も開発途上国には電力政策専門家として引き続き関与し、ミャンマー、イランの電力マスタープラン作成、エジプト、パキスタン、ガーナ、ラオス、フィリピンなどの電力調査・政策提言に携わってきました。パキスタン国電力セクターへの世界銀行、ADB、日本側の共同融資のためのDPL( Development Policy Lending)では、日本側の電力専門家として参加し、コベナンツ(この場合、電力セクター改革分野で、パキスタン国が借入のために達成しなければいけない条件)の設定のための提言なども行いました。この業務では、パキスタン国の電力セクターの改革の状況を諸外国の事例から勘案しつつ、世界銀行、ADBの推したい協力分野を見ながら、日本企業の電力・エネルギー分野での強みを発揮できる分野がどこであるのかアドバイスを行うかが難しいポイントでした。

イラン国電力マスタープランで現地電力会社と討議する様子

 

公職では、2017年から経済産業省の再生可能エネルギー大量導入や再生可能エネルギー主力電源化のための審議会の委員として日本の再生可能エネルギー政策がどうあるべきかについて提言をおこなっています。こうした審議会や、政策調査で行った内容をいくつかの本にまとめてきました。2020年の近著(単著)「再生可能エネルギー主力電源化と電力システム改革の政治経済学」では、第41回エネルギーフォーラム賞優秀賞を授与されました。
(審査委員からの評価はhttps://www.gsais.kyoto-u.ac.jp/blog/2021/03/03/20210218

 

               第41回エネルギーフォーラム賞優秀賞受賞

思修館には、武者修行という制度がありますが、武者修行は「各自の専門研究と研究成果を社会へ展開する将来構想に基づき、「フィールドワーク(海外武者修行)」として国際実践教育を行います。フィールドワークでは、グローバルな視点で自らの位置取りを行い、意識改革に加えて、責任感、実践力を一体的に育成します。(思修館ホームページより)」 であり、その後、プロジェクトベースリサーチ(​発展型プロジェクトベースラーニング:PBR)を履修し、自らの専門性をベースとした社会実装に取り組みます。
 
上記のように、教員(私)の活動も、専門研究と、フィールドでの電力政策の実装を交互に行い、スパイラルUPした展開することを目指しているわけで、その意味では、今でも武者修行・PBRを私自身が進行形で、実施しています。
 
思修館の皆さんもこれからいろいろな経験をすると思いますが、これまでの私の経験を活かして、皆さんが関与する国内外での政策支援等の研修、実装にお手伝いができたらよいと考えております。

京都大学大学院 総合生存学館

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