京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<清水美香特定准教授>

総合生存学館地球社会レジリエンス講座・特定准教授の清水美香です。学生時代から米国ワシントンDCとハワイで14年過ごしました。DCといっても、郊外は田舎で緑豊か、ハワイは言うまでもなく山と海に囲まれ、その間もスウェーデン・ストックホルム大学で研究の機会を頂いたりして、ずっと自然豊かなところで勉学や研究ができたことは、私にとっての大切な宝物です。環境というのはやはり大切だなと思います。机に向かって、パソコンとにらめっこしているだけでは、新しいものは生まれにくい。豊かな自然や多様な人々に触れることで、その関係性の中から、想像力や創造力が育ち、新しいアイデアや発想に結びつくのではないかと思います。そのこともあって、大学でワークショップを開催するときはいつも、環境づくりに人一倍のエネルギーを注ぎます。昨年開催した屋久島のプロジェクトのときも、コロナ禍の中にあっても学生たちに既存の枠を超えてもらうための環境づくりに漏れなく力を注ぎました。
 

 

日本に戻っても、海外の研究者らと日常的にやりとりしていて、スカイプやZOOMを通して喧々諤々話し合いながら研究プロジェクトを進めています。普段京都でも、留学生や外国教員の方々との交流が多い日々です。長年海外を行き来していると、国や人種の違いや枠といった感覚は私の中で消えたのでしょうか。心から話せる相手に出会うには、国や人種は全く関係なし。自分の軸や想いをもっていれば、どこかで心が通じ合い共感しあえる同志に出会う。そのときの喜びはひとしおです。他方東日本大震災以降、フィールドワークなどを通して日本の地域との関わりも多くなり、地域の人々との交流も増えてきました。気仙沼、福島、屋久島など、地域に行く度に、私は人として地域の人々や自然からいつも何かを学び、自分の器が少しずつ大きくなっていくように感じます。今日も福島で育てられた無農薬のアスパラガスが自宅に届きました。このようにして自分にとっての故郷がまた一つ増えていきます。
 

 

そうした地域との関係性を通して私が得てきた気づきは、マクロを語るにも、現場を知らなければ何も確信したことは言えない、ということです。もともとは国際公共政策が専門で、博士論文でグローバルリスクを扱い、その後も災害リスクマネジメントをテーマに研究所やシンクタンクで政策アナリストとして従事し、どちらかというとグローバル課題、そしてマクロレベルの政策や制度を扱うことが多かった私でした。しかし片方(マクロ)に足を突っ込むだけでは、公共政策が主眼とする社会の問題解決のための提言をするには不十分です。現場に身を置くこと、そしてコンテキストに沿って詳細を観察しながら、木を見て森も見ることができる。木を見て森も見てこそ、制度設計や政策についても語る資格ができるのだと思います。学生のときにワシントンで「シンクタンク」に出会って、その装置を通して民意の反映する市民社会の在り方を追究してきましたが、一般的に必ずしも「シンクタンク」が現場やコミュニティと政策を繋げてこなかったことが、コロナ対応をはじめ様々な政策の危機に現れているように思います。
 
こうした私自身の気づきは、「レジリエンス」との出会いも影響しています。「レジリエンス」に出会ってから、マクロとミクロの「あいだ」、地域とグローバルの「あいだ」の視点を持つことができるようになりました。私がレジリエンスに出会ったのは、学生時代に米国で起きた2001年911テロ事件の直後。なにやら教授陣らが「これからはレジリエンスの時代だ」と話し合っているのを耳にしたのが最初でした。そこからいつのまにか「レジリエンス」は私にとって、研究およびライフワークの軸になっていきました。
 
レジリエンスは、狭義で捉えるか、(多様な側面を理解した上で)広義で捉えるかによって、そこから見える風景が全く異なります。私は後者のほうを通してこそ、レジリエンスの本質が見えると考えます。そうしてレジリエンスをどのように可能にするかを追究していくと、システムズアプローチ(平易にいえば、物事を点でみない、点と点を繋ぎ合わせることを可能にする手法)など、これまで難解だと思っていた思考方法に向き合うことになり、実際の問題に当てはめていくと、ストンと自分の中に入ってくるようになりました。そうした学びを多くの人に伝えたいと、システムズアプローチを「木を見て森も見る」という言葉で言い表すなど、一般の人々にも通じる表現を通して、レジリエンスの本質を伝え(詳しくは『協働知創造のレジリエンス:隙間をデザイン』(京都大学学術出版会2015)をご覧ください)、それと私達の生活や未来にどう関わっているかを敷衍する活動も行っています(参考:https://resilience-initiative.com/)。
 
そうした活動は、多いにして研究者や科学者以外の方々との協力も得なくてはできません。特にアートや哲学の視点が必要になってきます。もともと私はそちらへの関心も幼いときから高く、自然な流れでそうした分野や関係する方々との融合が実現しています。ただし、まだまだこうした手法に着目する研究者は身近にはあまりいないのが現状です。しかし、目を凝らしてみると、持続可能な社会の研究を牽引しているストックホルムのレジリエンスセンターをはじめ、SDGsの実施に取り組む科学コミュニティがナラティブ手法やアート・映像を取り入れ、より多くのステークホルダー・人々とのコミュニケーションを図り、アクションに繋げようとする動きにあることが見てとれます。
 
SDGs実施まであと10年を既に切りました。研究や学術も絶えずその在り方が問われていることを自覚し、常に自分の周りにある枠を取り払いながら持続可能な社会のためにアクションを起こしていく同志にたくさん出会えることを楽しみに、これからも様々なチャレンジに挑んでいくつもりです。

京都大学大学院 総合生存学館

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