京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<橋本道雄特定教授>



橋本道雄特定教授

資格・スキル・ネットワーク
 
2020年5月に総合生存学館に着任しました橋本道雄です。JX金属(株)との産学共同講座であるSDGsの実現に向けた地球社会レジリエンス講座を担当しています。
 
私は1989年に通商産業省(現経済産業省)に入省し、主にエネルギー・技術・国際の分野で行政官として仕事をしてきました。2008年に「思うところ」があって社会人大学院に入学し、2011年に工学の博士号を取得いたしました。それ以降、東京工業大学グローバル水素研究ユニット特任教授、大阪大学共創機構 機構長補佐・教授など、行政官との「二足のわらじ」でアカデミアの仕事に携わり、今日に至っています。今日はそこに至るきっかけとなった「思うところ」について、お話したいと思います。
 
2001年1月、21世紀の幕開けと同時にベルギー王国ブリュッセル市にあるエネルギー関係の国際機関で仕事をする機会を得ました。国際機関に着任して最初に驚いたのは勤務時間の違いです。今でこそ働き方改革が進んでいますが、当時私のいた役所は「通常残業省」と揶揄されるくらい残業が多い職場で、「定時=終電」、「残業=朝帰り」くらいの感覚で仕事をしていました。しかし国際機関は全く違っていて、夕方5時になると全員が一斉にスクっと立ち上がり帰宅していきます。当時のベルギーはGDP成長率が日本の倍くらいあったので、「こんなに遊んでるくせに、なんでこいつら経済成長できてるんだろう?」と真剣に悩んだものでした。しばらくすると、そうでないことがわかります。彼らは5時に帰宅して遊んでいるのではなく、夜間の大学院や語学学校に通ったりしていたのです。新卒採用者が社内で出世して定年まで勤めあげる日本とは異なり、彼らは中途採用が基本で、ポストごとの公募に応募して仕事を得ていきます。より大きな仕事・より高い給料が欲しければ、専門性を蓄積してより高いポストに応募するしかありません。そのための準備として、学位を取得したり言語を追加したりしていたのです。国際機関では修士以上が専門職ポストに応募可能であり、さらに専門家と認められるためには最低限「博士」の学位が必要です。「残業なんかしている場合ではない!」そう思い、帰国後に社会人大学院への入学を決めました。
 
専門家を名乗るためには学位が必要ですが、学位だけあっても仕事ができるわけではありません。専門家に見合うだけのスキルが必要です。このスキルは経験からしか得られませんので、私は更なる経験を求めて2010年よりアラブ首長国連邦のアブダビ市に赴任し、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)という新しい国際機関の設立に参加しました。国際機関をゼロから立ち上げるというのは本当に大変な作業で、厳しいこと、辛いこと、汚いこと(ちょっとここでは言えないような)、そして楽しいことなど、たくさんの貴重な経験を積むことができました。しかしそれも束の間、日本で東日本大震災が起きます。原子力発電所が止まり、再生可能エネルギーを急いで増やさなければならなくなりました。「日本に帰らなくては!」、IRENAの職を辞して日本に帰ります。帰国を前にしたある日、「俺、来週日本に帰るんだよね」と仲がよかった米国エネルギー省の担当官に打ち明けました。するとその担当官の目がキラッと光り、急にIPHEとかいう水素の国際協力の話を熱弁し始めました。「なんのこっちゃ?」と思って聞き流していましたが、日本に帰ってみると米国大使館から経済産業省あてに書簡が届いており、「橋本をIPHEの次期議長に推薦したい」とのことでした。件の担当官が私の仕事ぶりを見ていて、それが推薦につながったようです。
 
日本に帰るとNEDOの新エネルギー部長を拝命しました。太陽光・風力・バイオマス・地熱・海洋といった再生可能エネルギーと水素・燃料電池の担当でした。当時、固定価格買取制度が導入された頃で、多くの企業や自治体などが再エネビジネスに参入し始めていました。IRENAでの経験から海外の再エネ動向に詳しかった私は多くの方々からコンタクトを得ました。また、当時400億円ほどの研究予算をもっていましたので、たくさんの企業の方々と様々なプロジェクトを立ち上げました。そうやってお付き合いした再エネ関係者の方々の名刺が、現在手元に4000枚以上あります。
 
「資格・スキル・ネットワーク」、この3つは総合生存学館が育成するグローバル人材が成功するために欠かせない3つの要素です。皆さんには学館での5年間を通じて、ぜひこの3つを身に付けていただきたいと思います。5年間のプログラムを修了すれば資格(学位)はとれますが、それだけではスキル・ネットワークは身に付きません。論文作成に向けた研究だけでなく、武者修行やPBRの機会を利用してスキル・ネットワークを身に付けてください。「そんなこと言ったって学生の身ではできることにも限界がありますよ」とおっしゃる方がいます。確かにそうですね。しかし、誰でもなにがしかのスキルやネットワークを持っているものではないでしょうか。私はおとぎ話の「わらしべ長者」が好きなのですが、たとえ小さなものでも、今手に持っているものを大事に育てていけば、いつか必ずそれが次の大きな何かにつながります。私のストーリーを見ていただければ、最初の小さな「思い」が資格・スキル・ネットワークへとつながって、少しずつ大きくなっていることがおわかりいただけるかと思います。ぜひ学館での経験を起点にして、スキルやネットワークを伸ばしていってください。そのお役に立てるよう、私も微力を尽くしてまいります。

京都大学大学院 総合生存学館

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