京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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遊聞会便り(第20号)

人間万事塞翁が馬

平尾和正(H26年入学)
社会福祉法人尚徳福祉会 本部事務局(東京事務所)所長

皆様、ご無沙汰しております。休学期間が終了し、昨年正式に大学を離れることとなりました。思修館プログラムを全うできず、学位も未取得の私ですが、遊聞会便りの執筆という貴重な機会を頂戴しましたので、あらためて私の人生の分岐点となった思修館(と休学中)の日々を振り返るとともに、近況報告をさせていただきます。
 
平成26年、私は当時勤務していた化学メーカーを退職し、東京から家族を連れて、思修館の門を叩きました。私が強く思修館に惹かれたのは、「専門性と統合的な視野から課題解決を進める実践家を育成する」(あくまで私が抱いた当初の印象です)という、思修館の理念に自分の目指すべき人生像を重ねたからです。そして、人生を賭して向き合う主題として、「教育」を自身の専門性としようと決意しました。
最初の二年間は、個性が強く魅力的な思修館三期生の同期達に圧倒されつつも、会社員生活では味わえない刺激に満ちた日々を過ごしていました。とりわけバングラデシュでの海外サービスラーニングは、私のこれまでの人生の五指に入るであろう楽しい経験でした。
しかし、三年次へ進級出来なかったことを契機に、そこから三年半の間(復学を挟みながら)休学することとなります。休学中は、京都大学の各部署でOAとして様々な分野の研究活動に参加させていただきつつ、自身での一般社団法人の立上げ、私立大学職員としての勤務など、試行錯誤の中にいました。
その節は川井秀一先生、惣脇宏先生をはじめ、多くの先生方にご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありませんでした。
現在は縁あって、鳥取県米子市に本部のある社会福祉法人(写真1)の東京事務所において、法人の経営に携わっています。法人の運営施設は、認定こども園、保育園、介護老人保健施設、学童等で、東京事務所では横浜市、川崎市、東京都内にある認定こども園及び保育園15施設を管理し、令和2年4月1日より、新たに3施設が運営開始の予定です(写真2)。
 
さて、私の思修館での研究は教育行政学という学問分野で、現在の仕事との繋がりとしては、幼児教育というテーマが挙げられます。
現在の幼児教育を取り巻く制度は、平成27年4月に開始された「子ども・子育て支援新制度」を根拠としており、待機児童の解消、保育士の待遇改善、幼児教育の無償化などが国会で取り上げられるなど、その問題点が大きな注目を集めています。
一方、幼児教育の内容に関しては、平成30年4月施行の「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の改正(補足:幼児教育施設は、厚生労働省管轄の児童福祉施設である「保育園」、文部科学省管轄の学校である「幼稚園」、両省に跨り双方の機能を合わせ持つ「認定こども園」がある)により、内容の横の連携が図られるとともに、同時に改訂された小・中学校学習指導要領(令和2年4月から全面実施)との縦の連携も図られるなど、大きな変革の時を迎えています。
 
このような激動の業界にあって、思修館で身に着けた「虫の目」と「鷹の目」の考え方の重要性を再認識しています。
「虫の目」では、新規施設の開園、職員の確保、財務面の安定等の日々の運営改善とともに、来るべき保育園余りの時代に保護者の方に選ばれる施設となるための戦略について、「鷹の目」では、未来を作る人材を育成する最初の教育施設としての社会的役割を追求し、非営利組織として果たすべき責務について考えながら、業務に取り組んでいます。
この二つの視点を持っているかどうかによって、自身の能力のみならず、法人全体の方向性、ひいては社会の制度設計にも大きな影響が出るような気がしています。
あらためて、思修館で学ばせていただいたことに、感謝申し上げます。
 
現役学生の皆さんが読んでいるかはわかりませんが、一つお伝えしたいことがあります。思修館では研究以外のことが多く求められますが、それは決して無駄になることではなく、どこで役に立つかわかりません。例えば、思修館の国内サービスラーニングにおける特養での実習は、当時は想像すらしていませんでしたが、職員配置や施設構造、1日の動き方など、社会福祉法人の介護施設経営を理解するにあたり大変役立っています。おそらく国内サービスラーニングが仕事に最も繋がっているのは私ではないでしょうか。
 
思修館と現在の仕事の繋がりについて書きながら、私が当時思修館に追い求めた「専門性と統合的な視野から課題解決を進める実践家」の姿は、実務の世界でこれまで以上に求め続けるべき姿なのだと気づきました。
思修館では誰よりもご迷惑をおかけした私ですが、思修館を志望した時の気持ちをそのままに、これからも日々の仕事に邁進していく所存です。
また、入学当時、生後8ヶ月だった長女が、今年の4月から第四錦林小学校に通うことになりました。施設近隣の保護者としても、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。(写真3)
 
2020年2月23日


(写真1)
法人本部から望む大山
 

(写真2)
工事打合せ中
 

(写真3)
大きくなった娘たち

京都大学大学院 総合生存学館

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