京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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新年(2020年)のご挨拶

学術のフロンティアを考える

京都大学大学院総合生存学館(思修館)
学館長 寶  馨
2020年1月

2020年(令和2年)が始まりました。令和になって初めてのお正月です。夏にはオリンピック、さらにはパラリンピックも開催される記念すべき年でもあります。各自、思い出に残る一年にしたいものですね。
 
さて、年末に何人かの教員が集まる機会があり、そこで議論して次のような図を作成しました。横軸は、左方向に行くに従って専門分野を特化させていくことを表し、右方向に行くに従って分野横断型のアプローチ(学際融合)を進めていくということを表します。縦軸は、下方に向かって、真理追究、現実理解と記しました。未解明の真理を明らかにするというのが学術研究の大きな目的です。また、社会現象などを研究する場合は、真理を追究するというよりは、複雑な社会の現実のありようを理解しその因果関係を解明するということが大きな目的になろうかと存じます。その一方で、理解を深めるだけではなく、現実社会の問題を解決するという方向性(縦軸の上方に向かう)のアプローチも重要です。

このように横軸と縦軸を設定した時に、あなたの研究はどこに位置するでしょうか。専門に特化し真理を追究しているという人は、第三象限(左下)に位置することになるでしょう。この領域を「純粋科学」と書いてみました。専門分野の成果(あるいは純粋科学の成果)を応用して現実社会の問題を解決しようとする人は、第二象限(左上)に位置するでしょう。この領域を「応用科学」と書きました。
 
複雑な系(システム)や社会の現実を理解することは、単一分野だけでは不可能です。どうしても複数の分野で学際的にアプローチすることが必要です。この領域(第四象限)を「複雑科学」と記しておきます。同様に、現実世界の問題を解決しようとする場合、やはり、単一分野だけでは不可能です。現実世界は、様々なものが複雑に絡み合っており、学際的なアプローチが不可欠です。経験的な解決方法が採られることも多いのですが、そうした解決方法が科学的根拠を持っているとも限りません。問題解決をする、あるいは政策を立案する場合に、アカデミア(学術)の立場からは、科学的根拠をもって解決法を提案しそれを実践していくことが重要です。こうした観点から、この第一象限をとりあえず「実践科学」と名付けておきます。
 
図中に赤い楕円を入れておきました。この楕円は、便宜的、観念的なものではありますが、学術(研究・開発)に携わる者はこの楕円の中にいると解釈できます。そして、この楕円の縁が各研究領域のフロンティアを意味します。この楕円の内部にいる研究者たちはそのフロンティアを広げようと頑張っているのです。
 
特に、図の左半分、すなわち、純粋科学や応用科学の分野はすでにフロンティアがこの図には収められないくらい大きく膨らんでいるとも言えます。一方、この図の右半分のほうのフロンティアは、学際融合のアプローチですから、推進するのが難しい面もあり、なかなかそれを拡大するのは難しかったとも言えます。
 
総合生存学館(思修館)の研究は、この第一象限に位置します。すなわち文理融合の学際的アプローチで、社会の諸問題を解決し、持続可能な社会、幸福な社会に貢献することを目指します。そしてこの楕円を右上のほうに拡大することを使命としていると言えます。
 
これは、京都大学のミッションである「地球社会の調和ある共存」にも通じますし、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献にもつながります。
 
学生諸君は、この楕円のなかのどこに位置して研究を進めていますか。そしてどの方向にフロンティアを広げて行けますか。一度考えてみてください。

京都大学大学院 総合生存学館

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