京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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教員コラム<山敷庸亮教授>



国連環境計画(UNEP)から、
インガー・アンダーセン事務局長(右から三番目)
を迎えての京都大学での講演会
(2022年9月30日開催)


総合生存学館の設立初期から関わらせていただき、防災研究所から総合生存学館の教員となり、もうすぐ10年となります。その間さまざまな修了生のみなさまに関わることができました。修了生の中には、アカデミアで活躍する人、国際機関で働く(働いていた)人、グローバル企業にて活躍している人、さまざまです。私は特に、学館修了生の就職を担当させていただいたこともあり、それらの方々のキャリアアップには非常に深い思いがあります。しかしながら、キャリアはいきなり決まるものではありません。私の経験からも、その輝かしいキャリアを支えるのは、学館が行ってきた、「海外武者修行」にあるのではないかと思っています。学館に異動になってから一番の仕事が国際機関とのMOUの締結でした。私の仕事はまず国連環境計画(UNEP)との全学協定の締結で、それが2013年10月に実現しました。それから9年となる2022年9月30日、その国連環境計画(UNEP)から、インガー・アンダーセン事務局長を迎えての京都大学での講演会が開催されました。会合にはズーム参加もあわせて100名以上の人が参加しましたが、基本的に英語プラス簡単な要約でした。そこで、「三重の惑星危機(Triple Planetary Crisis)」についての講演があったのですが、それについてお話ししたいとおもいます。Triple Planetary Crisisとは、「気候変動による危機」「生物多様性の減少」そして「汚染・廃棄物」です。地球環境問題はもちろん他にもたくさんありますが、最もシビアなのがこの三つだということです。そして、私が一番に感銘を受けたのは、アンダーセン事務局長の真摯な地球環境改善のためのアクションと、その想いです。我々が一番に怒られたのが、「ペットボトル」を講演者の飲水として出したこと。我々の意識の「低さ」を深く反省した次第です。
 
ところで、この国連機関への学生派遣、ここ2年間のコロナで一時完全に止まってしまっていました。この2年間は、「海外武者修行」を国内に切り替えたり、あるいはオンラインでの研修に切り替えた学生が大半かと思います。総合生存学館の柱が国際機関への派遣であることを考えると、このコロナ禍は「Crisis」であったといえます。そのような中で、久しぶりにリアルな国際機関の長に触れて、学生たちにとって、実際に「海外武者修行」をそれぞれの機関で行うことの重要性を再認識した次第です。
さて、もともと環境が専門の私が、現在は「宇宙環境」への進出を考えております。そこで、「環境保全」と「宇宙開発」という、全くベクトルが正反対である事象をどのように繋げるか?また人類は宇宙に進出する際、どのような「理念」に基づくべきなのか?ということについて、「コアバイオーム複合体の宇宙展開」というコンセプトを打ち出しました。これについては、現在書籍を準備中であり、予定通りであれば、2023年頭には書籍が刊行する予定です。しかし、そもそも「宇宙開発」という、まるで「環境破壊」を奨励するような物事と、地球環境保全という概念が一つの軸になるのでしょうか?
「コアバイオームコンセプト」では、地球にあり宇宙への移転を見据えた生態系システムを「コアバイオーム複合体」 とし、「生命維持」システムの維持に必要な技術体系を「コアテクノロジー」と名づけ、これらを備えた「循環型」の社会を「コアソサエティ」と名づけ、宇宙における「循環型社会」の構築を目指します。ここで重要なのは、地球環境保全に、このような「リサイクル」「閉鎖環境維持」を第一に考えてゆくことができれば、地球環境危機も減少するはずだ、という考えです。我々は「無限にある」と考えている地球の自然資本にあまりにも依存し、際限なく廃棄物をばらまき、限りある生態系を破壊し続けています。宇宙には、少なくともそのような生態系がないわけですから、「大切に」育てようという技術や思想がもっともっと広まるはずです。そもそもISSでは水が貴重で「洗濯」すらできないわけですから。
その中でも、地球において「最も」豊富と考えられている資源が「水資源」であるといえます。液体の水が表面にある唯一の太陽系惑星・地球。水に恵まれた素晴らしい地球環境を維持しながら、人類が宇宙に進出できる日が来ることを夢見ています。

京都大学大学院 総合生存学館

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