京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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遊聞会便り(第15号)

川田哲也(在学中)
日本エヌ・ユー・エス株式会社

皆さんは今、どんな空の下にいるでしょうか。在校生は京都の街の中、お世話になった先生は各々の想いの積もる郷に、そして卒業生は東京や海外の都市で、それぞれご活躍されていることと思います。京都の梅雨はそこそこに蒸し、授業に出るのが少し億劫になることもありました。時にバケツをひっくり返し、時にしとしと降り続ける雨は、京都の茶目っ気さを反映していたように思われます。一方で、この4月より上京(下京?)し住み始めた東京の雨は、薄く、霞がかるような雲に覆われた後に降り始めます。
 
雨は私の研究そして関心の対象の媒体でした。研究で雨水を採取するために、排水を集めてはやし草津川よろしく、天気に踊らされながらも滋賀県へ行き、昼に夜に研究室との往復をしていました。激流の中で身を置き耐えながら流速を測定したり、遠きバングラデシュのスラムで水を汲ませてもらったりしたのも良き思い出です。
 
さて、今は何をしているのかと申しますと、昔から関心の対象である化学物質の管理に関する仕事に就いています。ニュースや新聞で「ある場所で測定したXXの濃度が環境基準を上回った」や「小学生のYY%がZZの一日摂取許容量を超過して摂取している」などの情報を見聞きすることがあるかと思います。これらの基準ってどのように決まっているかご存知でしょうか。もちろん、環境に関するものは環境省、健康に関するものは厚生労働省などの行政が発行した報告書やレポート、法令に基準値が記載されることが多いです。一方で、その基準がどのような過程を経て行政から出されるのかについてはあまり知られていません。(総合生存学館の学生なら知っているかもしれませんね)
 
私たちの仕事は、専門家を集め、議論を取りまとめ、行政に報告することによって、化学物質の基準の設定を支援することです。どのような専門家にお声掛けすれば議論が深まるか、どのような知見を取りまとめ、サポートすれば円滑に議論が進むかなどを日々考え、業務しています。海外武者修行でスイスやオランダでインターンさせていただいた中で、このような業務に興味や関心を強く抱くようになったのだと思えます。まだまだ下っ端で、毎日新しい知識や経験を得ながら、走り続ける日々はとても楽しいです。そう、心から思えるこの職場で働けているのも、総合生存学館で足掻きもがいた日々があり、出会いがあったからです。
 
社会に出て実務の中に身を落とすと、明日やること、一週間後までのタスクの進捗、一か月後のプロジェクトの状況のように、ある程度の先なら見通せます。しかしながら、この霞がかった道のりにいくら目を凝らせども、ある程度までしか見えません。辿り着きたかった方向から大きくそれてしまっているかもしれないし、どうしようもない外圧によって歪められるかもしれない。そんな道です。自分が歩きたかった道かどうかを意識することなく、漫然と歩めてしまう。そんな道です。そんな空恐ろしさを感じさせない、雨の降る前のような空気感が漂い、いつのまにかじっとりと身を濡らしているような日々です。
 
でも、総合生存学館とかかわりを持ったものなら、その違和感を違和感だと思うことができ、俯瞰的に現在地を認識しながら、靄の纏う道を突き進んでいくことができるのだと信じています。にわか雨や暴風雨にも似た理不尽さにさらされ、過酷で濃厚な経験によって強くなった精神や自身のやりたいことへの真摯さは、どんな空の下でも生きていける強靭さを身に着けさせるでしょう。(レジリエンスを口酸っぱく言っていた同期が懐かしい)
 
雨と化学物質は私の関心のすべてであり、学生時代に向き合えてよかったと思える試金石です。この拙文でわかるような面倒くさい私に関わり、あたたかく接してくれた先生、先輩、後輩、そして愛すべき同期たちに感謝しつつ、また楽しくお話しできるのを心待ちにしております。ありがとうございました。
 
2019年06月25日


濡れるは街、歩む私

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