京都大学大学院総合生存学館(思修館)

概要

概要

マインドフルリビング研究会は、21世紀における「良き生」を求めて「マインドフルリビング」に焦点を当てた京都大学大学院総合生存学館の大学院・ポスドク複合型研究会です。 もともと仏教の概念である「マインドフルネス」(正念)は重要なライフスキルとして、東洋と西洋、人文学と認知科学、古代の智慧と現代心理学、研究と実践の交点にある基礎的な概念として注目されています。
マインドフルネスを「三慧」 (聞慧・思慧・修慧)の観点から捉えることで、【1】古典や今に生きる伝統の学習(特に、仏教学など)、【2】哲学(特に、ピエール・アドに習い「生き方」としての哲学)、【3】認知科学(特に、マインドフルネス認知療法) を統合した学際的なプログラムを提供しています。このすべてで、京都の伝統文化とケアの美学を参考としています。この統合された「生の知」は、人間の苦しみの根本的な精神的原因に対処し、危機的な時代に生き残り、繁栄するための知識として構想されています。 当研究会では大学院生・ポスドクからの研究を募集しています。研究会では、定期的に開催される研究ミーティング・読書会・マインドフルネスプログラムの演習・学際的なワークショップ等を通して、学術論文の執筆やカリキュラム開発、マインドフルネスプログラムの実装に向けたコラボレーションを行っています。

統合的なアプローチとしての「マインドフルリビング」

「マインドフルリビング」

当研究会が定義する「マインドフルリビング」とは、精密な内省と智慧の探求を通してマインドフルネスを自身の実在に統合することを指します。より有意義で、注意深く、回復力があり、持続可能な生き方を指します。

東洋と西洋、古典人文学と現代科学の交点としての「マインドフルネス」

元々仏教の概念であるマインドフルネス (パーリ語 sati; サンスクリット語 smṛti; チベット語 dran pa; 漢訳 念) は記憶力と注意力の観察機能であると同時に、 より深い意味としては、一瞬一瞬の直感に寛容的に慈悲を持って接する平常心 (presence of mind) を指します。 この能力・修練方法はこの数十年で科学的に研究され、その結果、医療・法律・教育・職場など様々な場面で革新的な(ゆえに時に疑義のある)応用がされており、 現代的な問題や苦しみ(ストレス、不安症、うつなど)を緩和し、人間的繁栄と強みとしての徳性 (character strength)を促すことなどが期待されています。

shōnen, "correct mindfulness"

総合的なモデルとしての「三慧」-聞・思・修-

私たちの研究会の認識論および方法論である「三慧」とは、その名の通り三種の智慧(聞慧・思慧・修慧)から成る仏教の智慧の育成方法であり、西洋の philosophia (論理的な論議と生き方の両面から、智慧を愛し求めること)と調和するモデルです。 三慧は、静的・二元論的な立場を超え、三種の智慧の源泉(伝統、合理性、直感)とその関係性をダイナミックに、段階的な智慧の再実現化および自己の知の獲得手段として示しています。
マインドフルネスの記憶・内省・注意力的側面ははそれぞれ三慧に統合することができます。
(1)億念:重要な情報を聞き学び記憶する,
(2)思念:物の見方を構築する適切な認識の形成,
(3)専念:平常心を育み、開放的な直感を得る
さらに、三慧を現代学問に当てはめると、(1)文献学(2)哲学的分析(3)フィールドワークや実証研究を結びつけるモデルとして理解することができます。三慧に関してさらに知りたい方は こちらの論文を参照してください(英語のみ)


人生のためのマインドフルネス認知療法:文化的・教育的な視点

我々の研究会ではマインドフルネスの実践を体得し適用する「生活世界」としての文化、およびマインドフルリビングが息づく「注意の文化」(cultures of attention) に注目しています。 この観点から、現在私たちは Oxford Mindfulness Research CentreOxford Mindfulness Foundation と協力し、哲学と文化に基づいたマインドフルネスプログラムの研究と開発を行っています。 特に、臨床現場だけでなく健常者を対象とした 「人生のためのマインドフルネス認知療法」(Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Life (MBCT-L) 、別名 "Mindfulness for Life") の高等教育および生涯学習への応用に焦点を当てております。


©京都大学 清風荘
©京都大学 清風荘

メンバー

主指導教員 Marc-Henri Deroche,

PhD, Associate Professor, GSAIS, Kyoto University
科研費 基盤研究(C)(一般) 課題番号 23K00048
チベット仏教のニンマ派における「念」: 経典、注解の文献研究と自覚の哲学

博士課程学生と副担当教員

Lobsang Gnon Na, "A Study of Mindfulness, Meta-awareness, and Ethics in Tibetan Philosophy and Their Application to Social and Emotional Learning Based Education" (2019-2024) (Co-supervised with Izumi Miyazaki, Professor, PhD, Graduate School of Letters, Department of Buddhist studies, Kyoto University)

Ryotaro Kusumoto, “Re-envisioning Higher Education with Mindfulness: Ancient Sources, Cross-Cultural Philosophy, and Integrated Applications” (2019-2024) (Co-supervised with Jeremy Rappleye, PhD, Associate Professor, Graduate School of Education, Education and Human Sciences, Kyoto University)

Francisco Figueroa Medina, “Ethics, Meditation and Wisdom: Research on Zen Meditation Manuals in Post-war Japan” (2022-2027)

Wang Yue (Lhamtso Tseyu), “A Study on Mindfulness in Buddhist Psychology: Tibetan Exegesis on Mind and Mental Factors according to Mahāyāna Abhidharma” (2022-2027)

Zheng Xiaoyu, “Cultural Revival of Tibetan Buddhism in Contemporary Sichuan, China: Research on the Traditional Teachings About Mindful Awareness (dran shes, 正念正知) at Yachen Monastery” (2022-2027)

Tu Shihan, “Daoist Philosophical Perspectives on Well-Being” (2023-2028)

協力者一覧(アルファベット順)

  • Michel Bitbol, MD, PhD, フランス国立科学研究センター(CNRS) 名誉主任研究員、Ecole Normale Supérieure, Archives Husserl (UMR 8547)

  • Michael Chase, PhD, フランス国立科学研究センター(CNRS) 研究員、Centre Jean Pépin (UMR 8230)

  • 藤野 正寛, PhD, NTT コミュニケーション化学基礎研究所 リサーチスペシャリスト

  • 藤田正勝, PhD, 京都大学大学院総合生存学館 名誉教授

  • 井本 由紀, PhD, 慶応大学理工学部外国語・総合教育教室 専任講師

  • Romaric Jannel PhD, 京都大学人文科学研究所 連携研究者, 国際哲学コレ―ジュ (Collège International de Philosophie) プログラム・ディレクター, パリ

  • 川上 全龍, 妙心寺春光院 住職

  • 岸本 早苗, MHS, MHP, マインドフルCARE 代表、「マインドフルネスストレス低減方」認定講師、「マインドフル・セルフ・コンパッション」認定講師

  • Willem Kuyken, PhD, DClinPsy, University of Oxford Department of Psychiatry Professor, Oxford Mindfulness Research Centre Director

  • Antoine Lutz, PhD, フランス国立衛生医学研究所 (INSERM)、リヨン神経科学センター 研究員

  • Harold Roth, PhD, ブラウン大学宗教学専修 教授、Contemplative Studies Initiative at Brown University 主任

  • Michael Sheehy, PhD, Contemplative Sciences Center 主任、バージニア大学チベット仏教学専修 助教授

  • 上床 輝久, 博士(医学), 京都大学医学部附属病院 精神科神経科  助教授