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研究成果 空港PCR検査と渡航前の健康意識 ― 沖縄・那覇空港を対象とした横断研究

小塚昌弘さん(総合生存学館・大学院生/水本研究室所属)を筆頭著者とする、水本憲治 総合生存学館(思修館)准教授らの研究グループは、沖縄県が那覇空港で実施した「那覇空港PCR検査事業(Naha Airport PCR test Project:NAPP)」に参加した国内旅行者を対象に、空港における自発的PCR検査と渡航前の健康意識との関連を分析しました。本研究成果は国際誌 IJID Regions に “Pre-travel health awareness and perceptions of voluntary airport PCR testing during COVID‑19: A cross-sectional study in Okinawa, Japan” として掲載されました。
 
本研究では、2021年2〜3月に那覇空港に到着したNAPP参加者4,545人を対象に、年齢や居住地、渡航目的、検査を受けた理由に加え、①沖縄県内空港でのサーモグラフィによる発熱スクリーニングを知っていたか、②発熱者に対するPCR検査が行われていることを知っていたか、③それらを知った結果、出発前の体調管理にどの程度気をつけるようになったか、④渡航時点での自覚症状の有無などを質問票で調査しました。
 
その結果、空港での発熱スクリーニングの存在を知っていた参加者のうち94.1%が「旅行前に自分の体調により注意するようになった」と回答し、発熱者に対するPCR検査の実施を知っていた参加者では96.4%が同様に健康意識の高まりを報告しました。また、回答者全体のうち何らかの自覚症状があった人は3.9%にとどまり、その多くは鼻汁や咳などの軽い上気道症状でした。検査を受けた理由別にみると、「家族のため」に受検した人に比べて、「職場からの指示」で受検した人では有症状者の割合が有意に低く、職場でのルールやメッセージが自己チェックや受検行動を後押ししている可能性が示唆されました。
 
一方、同じ研究グループは先行研究として、沖縄県内9空港で2020〜2022年に実施された発熱スクリーニングの実測データを用い、サーモグラフィによる体温測定だけではCOVID‑19感染者の9割以上を見逃してしまい、空港検疫としての「直接的な」流入阻止効果は限定的であることを明らかにしています(推定捕捉率8.2%、到着約300万人のうち発熱者10人検出)。
 
今回のIJID Regions論文は、この知見を踏まえつつ、空港での発熱スクリーニングやPCR検査といった対策が、旅行者に「出発前から体調を整え、少しでも具合が悪ければ旅行を控える」という行動変容を促す“間接的・心理的効果”を持ちうることを、世界的にも珍しい大規模データで定量的に示した点に大きな意義があります。発熱スクリーニング単独では感染者の流入を十分には止められないとしても、事前の周知や自主PCR検査と組み合わせることで、自己管理を促す実践的なツールになり得ることを示す、非常に貴重な研究成果と言えます。
今後、医療資源の限られた地域や離島・観光地が、新興感染症の流行時にどのような空港対策パッケージ(自発的PCR検査、リスクに応じた検査戦略、情報提供など)を設計すべきかを議論する際、本研究と先行する発熱スクリーニング研究の結果は、対策の「直接効果」と「間接効果」をあわせて評価することの重要性を示すエビデンスとして役立つと期待されます。
 
【連携】
本研究は、沖縄県と京都大学 総合生存学館(水本研究室)を中核とする官学連携・他機関連携の枠組みで実施されました。那覇空港PCR検査事業(NAPP)の企画・運営やデータ整備には、沖縄県(保健医療部・文化観光スポーツ部等)、沖縄県衛生環境研究所、県内の保健所・医療機関、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)など、多くの機関が協力しています。
水本准教授らは、沖縄県新型コロナウイルス感染症対策疫学・統計解析委員会*1の委員として、これらの研究で得られた知見を県の新型コロナ対策や観光政策の検討に継続的に還元してきました。
 
*1: 沖縄県新型コロナウイルス感染症対策疫学・統計解析委員会
https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/406/03kouseiinmeibo_1.pdf
 
査読有り
Kozuka M, Shimakawa Y, Chowell G, Nagamoto T, Matsuyama R, Omori R, Xu YS, Shimoji Y, Ogawa K, Takayama Y*, Mizumoto K*. Pre-travel health awareness and perceptions of voluntary airport PCR testing during COVID-19: A cross-sectional study in Okinawa, Japan. IJID Regions. (2025). (In Press, Journal Pre-proof) XXX(数日内に判明予定)
 
関連論文
Takayama Y, Xu YS, Shimakawa Y, Kozuka M, Omori R, Matsuyama R, Yamamoto T, Mizumoto K*. Assessment of fever screening at airports in detecting domestic passengers infected with SARS‑CoV‑2, 2020–2022, Okinawa prefecture, Japan. BMC Infectious Diseases. 2024;24:542. doi: 10.1186/s12879-024-09533-4.
 
その他の業績等
Google Scholar: Kenji Mizumoto
https://scholar.google.co.jp/citations?view_op=list_works&hl=ja&hl=ja&user=OW5PDVgAAAAJ&sortby=pubdate