1977年 - 2003年

1977 - 1979 アンダーソン局在状態での電子相関効果の研究 (理論物理)

 1977年より1979年まで、東京大学大学院理学系研究科物理学専門課程において、ドナー不純物を含む半導体の帯磁率と電子比熱の特異なふるまいの起源を理論的に解明する研究に従事した。


 Siにドナー不純物Pをドープしていくと、系は、ある不純物濃度でモット・アンダーソン転移をおこし、金属的になる。この金属-半導体転移をひきおこす不純物濃度より少し低い、いわゆる中間濃度領域では、ドナー電子による帯磁率と電子比熱の温度依存性は、異常なふるまいを示すことが実験的にわかって いた。

 

 この異常現象を説明するために、1つのアンダーソン局在状態に入る2つの電子の間に存在する電子相関効果を考慮した。この考慮に基づくハミルトニ アンを新たに提唱し、そのハミルトニアンに基づく統計力学を解いて、帯磁率と電子比熱の温度依存性を求めた。その結果、実験をよく説明することができ、局在した量子状態とひろがった量子状態の2面性は、アンダーソン局在状態での電子相関効果によるものであることを明らかにした。 (関連英論文へ) (関連国際会議へ)

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1979 - 1984 III-V族半導体の低次元電子系に関する研究  (実験物理)

 1979年より1984年まで、日本電信電話公社・武蔵野電気通信研究所・基礎研究部において、III-V族半導体MISFETの開発をめざした基礎研究に従事した。

 

 GaAsやInP、InAsなどのIII-V族半導体では、有効質量がSiに比して小さいため、Siより高速のMISFET を作ることができる。しかも直接遷移型半導体であるため、半導体レーザを同一基板上に作成することができる。しかしながら、Si-SiO2系のようなほとんど理想的な界面をもたらす絶縁膜が見つかっていない。そこで、理想に近い絶縁膜を探索する実験的研究からスタートした。CVD法により、InPや InAs上にPAsxNyやBNなどの絶縁薄膜を成長させることに、はじめて成功した。さらに、界面準位のエネルギー分布をICTS法で測定する方法を、はじめて見出した。

 

 5年間の実験的研究の後、最終的に2次元電子系を観測し得るMISFETを作成するにいたった。InPおよびInAs MISFET上で2次元電子系のサブバンド構造を観測し、III-V族半導体MISFETにおける電子移動度の特異なふるまいが、サブバンド間散乱にもとづくことを、はじめて実験的に証明した。 (関連英論文へ) (関連国際会議へ)

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1984 - 1991 III-V族半導体の電子構造に関する研究  (理論物理)

 1984年より1985年まで,米国ノートルダム大学理学部物理学教室において、また、1985年より1990年まで、NTT基礎研究所・材料物性研究部において、III-V族半導体の界面準位、超格子のバンド構造、深い準位を理論的に解明する研究に従事した。


 これまでの、III-V族半導体MISFETの開発をめざした研究を通じて、界面準位のエネルギー分布が、基本的にはIII-V族の各半導体に固有の性質で あることが明らかになった。たとえば、GaAsでは、どのような絶縁体との接合を作っても常に伝導帯近傍に界面準位が生じ、n型MISFETとしては働かない。このような「個性」の起源は何か。


 これを探るために、2種の異種物質が接合した系の電子構造を求める理論を、経験的グリーン関数法及び超格子法に基づいて発展させた。その結果、III-V族の各半導体に固有の界面準位は、接合部の結合軌道ないし反結合軌道がバンドを破壊して発生することがわかった。また、適当なIII-V族半導体を1原子層だけサンドイッチすることで、界面準位のエネルギー分布を制御できることを、はじめて見いだした。


 この理論を応用して、超薄膜超格子のバンド構造の膜圧依存性を求めた。その結果、AlAs-GaAs超格子のバンド交差現象に関する実験結果を、理論的にはじめて説明し得た。


 さらにグリーン関数法をIII-V族半導体中の深い準位、特にドナーが作る特異な深い準位に適用した。AlxGa1-xAsにおいては、Siなどのドナー不純物自身が深い準位を形成して絶縁体となる現象が1960年代に見つかっており、DXセンターと名付けられている。この現象は、ドナー不純物がもたらす巨 大格子変形によるものとされていたが、微視的なメカニズムは不明であった。本研究で発展させた理論研究の結果、「ドナー不純物とホスト原子が作る反結合軌道が、深いドナー準位を作り得る」ことを、見いだした。このことは、DXセンターの起源が、従来定説であった巨大格子変形ではなく、ドナー不純物のもたらす反結合軌道であることを示唆する。


 その後、米国の理論グループが、第一原理スーパーセル法による計算を用いて、再び「巨大格子変形状態がエネルギー的に最安定であること、そのときに DXセンターが2電子状態として出現すること」を示した。そこで、本研究においても米国のグループをこえる精密な第一原理スーパーセル法による計算を行っ た。その結果「格子変形のほとんどない状態がエネルギー的に最安定であって、米国のグループが示した『最安定状態』は、最安定ではない」ことを見いだし、 本研究で得たモデルの正当性を確認し得た。  (関連英論文へ) (関連国際会議へ)

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1991 - 1998 III-V族半導体の光物性に関する研究  (実験物理と理論物理)

 その後、ヨーロッパの実験グループにおいて、先に本研究において理論的に予言した「ドナー不純物とホスト原子の作る反結合軌道」による深いドナー準位が、実験的に見いだされた。この深い準位とDXセンターとの関係を調べるために、1991年より現在に至るまで、NTT基礎研究所・材料物性研究部において、III-V族半導体中の深い準位の光物性に関する研究に従事した。


 これまでに明らかにしてきた理論が正当であれば、深いドナー準位をもつAlxGa1-xAsにバンドギャップ以下のエネルギーを有する光を与えると、バンド端フォトルミネセンスが観測されるはずである。す なわち、深いドナー準位と伝導帯との間に、格子変形によらない障壁が存在するはずである。これを確認するために、Siドナーを含むAlxGa1-xAsに 対して実験を行った。その結果、まずSiを2重デルタ・ドープしたAlxGa1-xAsにおいて1.8 eV程度の光入力に対し、2.0 eVのバンド端フォトルミネセンス (Anti-Stokes Photoluminescence) を観測し得た。その後、デルタ・ドープ系のみならず変調ドープAlxGa1-xAs超格子系やバルク系においても同様のフォトルミネセンス効果を観測し得た。励起 スペクトル、ルミネセンスの光強度依存性、温度依存性などの実験結果は、本研究で得た理論モデルを正当化した。


 さらに、NTT基礎研究所・材料物性研究部において、窒化物半導体が電子デバイスとしても「もの」になるか否かを調べるために、深い準位の理論の研究を再開した。グリーン関数法による計算の結果、 (Al, Ga) (As,P) 系では比較的顕著に禁制帯中に出現した深いドナー準位が、 AlxGa1-xNにおいては、まったく禁制帯中に出現しないことを見いだした。したがってこの系にあっては、 AlxGa1-xNではなく、完全な絶縁体として働くAlNそのものを、GaNの電子障壁層として使えることが予言される。こうして、GaN/AlNヘテロ構造およびその超構造は、次世代の電子デバイスとして極めて重要で有望な材料であることが示唆された。


 さらに、GaNにおいてはN欠陥が作る局在s準位 が伝導帯端直下に出現すること、この局在準位はInxGa1-xNにおいてはxの増大とともに浅くなり、ついに伝導帯と共鳴することが分かった。この理論結果は、InxGa1-xNにおいて観測される異常な光学的性質 (伝導帯中の電子の異常に強い局在化、及びInモル分率を大きくしていくと途端に大きくな る、光吸収エネルギーと発光エネルギーの差) を良く説明した。

 

 この予言をさらに確認するため、第一原理スーパーセル法による計算をも行った。その 結果、N欠陥による局在s準位は、GaNにおいてすでに伝導帯と共鳴している結果を得た。 (関連英論文へ) (関連国際会議へ)

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1989 - 1998 固体内重水素の異常核効果に関する研究  (実験物理)

 1989年3月に、2人の化学者 (Martin Fleischmann-英国Southampton大学教授-とStanley Pons-米国ユタ大学教授-)が、「陰極にパラジウムを用いて重水の電気分解を行うことにより異常なほど大量の発熱を観測した」と発表し、「パラジウム 内に吸蔵された重水素による常温核融合」の可能性を示唆した。しかし、常温での固体内核反応という核物理学の「常識」に反することの存在を検証するには、 核生成物を疑義なく観測しなければならず、水のように不純物を貪欲に含みえる媒質の存在下では困難である。そこで、真空下で同様の実験を行うことのできる 装置を開発し、1989年より1992年に至るまで、NTT基礎研究所・材料物性研究部において、固体内に吸蔵した重水素がもたらす異常発熱効果の起源を 究明する研究に従事した。


 この新しいアイディア (真空法) による実験の結果、異常発熱とヘリウム-4の生成とが同期して起こることを観測することに成功。その後、真空法により異常発熱効果を100%再現する条件を見いだした。  (関連英論文へ) (関連和論文へ) (関連国際会議へ)

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1998 - 2003 科学技術政策に関する研究(社会科学)

 1998年に、経団連21世紀政策研究所において、科学技術政策に関する研究に着手 した。科学と技術の日本における歴史的展開を有識者調査し、技術創造のこれまでの方法論の限界と新しい方法論の在り処に関する提言を行った。


 さらに、リアルな社会をできる限りリアルなまま記述し、その記述に基づいてモデルを再構築する試みを始めた。これに基づいて日本社会の状態構造を、topographyにより、詳細に解析した。  (関連英論文へ) (関連和論文へ) (関連国際会議へ)

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2003年 -

2003 - イノベーションと技術経営に関する研究  (複合領域)

 クレイトン・クリステンセンの「破壊的イノベーション」の議論に潜む誤謬から出発して、まったく新しい型のイノベーション、すなわち「パラダイム破壊型イノベーション」を発見した。前者の成就メカニズムが、「バリュー・ネットワーク・トラップ」に起因するのに対し、後者の成就メカニズムは、独創の生成プロセスを暗黙知として共有したチームだけがこれを事業化できるという不可避性に基づく。

 この議論を、トランジスタ (バイポーラ、MOSFET、HEMT) および青色発光ダイオードに適用して、それぞれなぜベンチャー企業が新産業をおこすイノベーションの担い手になりえたのかを分析した。その結果、イノベーションの成功確率を上げるための「共鳴場」モデルを明らかにした。「共鳴場」すなわち「知を創造する担い手」と「知を具現化して社会価値に繋げる担い手」とがその知を暗黙知のまま伝達する「場」が、企業内部のみならず企業の枠組みを超えて多数存在することが、イノベーション・プロセスの連鎖反応を引き起こすために本質的である、ということである。

 ここで与えられた「共鳴場」モデルをさらに深く分析するために、3つのアプローチで研究を進めた。第1は、企業を超えた共鳴場ネットワークのマクロな構造とそのダイナミクスを、そのリンクやノード (ハブ) のミクロな性質を捨象して分析する経済物理学的なアプローチ。第2は、そのリンクとノードのミクロな性質を調べることを目的として、組織内科学者・技術者の社会的な特性 (characteristics) を調査する社会学的なアプローチ。第3は、さらに深く、実際にイノベーション・プロセスに関わってきた組織内科学者・技術者にインタビューしながら彼らの実存的欲求の深層を分析する文化人類学的なアプローチである。以下、それぞれのアプローチの研究実績を掲げる。

 第1の経済物理学的なアプローチを行うために、イノベーション・プロセスを表現する重要な指標である特許に焦点を当て、日本の10万オーダーの企業が含まれる共同出願特許ネットワークを構築して、そのネットワーク構造を分析した。その結果、以下のことが明らかになった。(1)クラスターは階層性を持つ。(2)地理的特性が非常に強い、すなわち近接する企業と共に、相互に大都市であるということが協調的R&Dにポジティブな影響を及ぼす。(3)Preferential Attachmentと呼ばれる典型的なネットワーク成長モデルは特許ネットワークをおおよそ再現できるが,地理的な構造は再現できない。地理的に近いノードほどそのリンクの終点として選択されるという条件を付加するだけで特許ネットワークをほぼ再現できる。

 第2の社会学的アプローチについては、とくに日本の科学者・技術者の流動性に着目し、社会構造の観点から分析を行なった。国内研究機関としてはトップクラスの国立試験研究機関の独立行政法人化過程をアンケート・インタビューの量・質の両方から分析を進めた。また京都ハイテク企業の技術者に対して、アンケート・インタビュー調査を行なって、京都企業の特徴を抽出するとともに、その微細構造を見出した。

 第3の文化人類学的なアプローチについては、第一に、“アジアのシリコンバレー”台湾・新竹におけるサイエンス型ベンチャー企業のキー・パーソンや技術者・テクニシャンについて長期かつ持続的なフィールド調査を行なって、台湾イノベーション・システムの深層を調べた。また、半導体クラスターのフィールド調査を目的としたシリコンバレー視察を行なった。さらに、パラダイム破壊型イノベーションの著しい事例として、CCDを取り上げ、その発明と開発・事業化を行なったキーパーソンへの綿密なインタビューに基づき、CCDのイノベーション・プロセスを詳細に調べた。 (関連英論文へ) (関連和論文へ) (関連国際会議へ)

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2003 –  次世代半導体デバイスの開発とその事業化  (複合領域)

 2001年5月に創業した株式会社パウデックにおいて、2002年9月よ り窒化ガリウムHEMT大口径ウェハの製造を開始した。このウェハを用いて実際にHEMTデバイスを作製し、その2次元電子系の特性を調べた。2次元電子の移動度は、室温で1400cm2/Vs、ヘリウム温度で10000cm2/Vsを超えた。また明確なShubnikov de Haas振動を確認した。

 2005年6月創業したALGAN株式会社において、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化アルミニウムおよびこれらの混晶を用いた紫外線センサーの開発に着手した。現在、真空紫外域の光検出に成功するほか、特定の紫外線波長にしか反応しないセンサーの開発に成功した。さらには、高エネルギー荷電粒子線を検出するセンサーの開発にも成功した。 (関連英論文へ) (関連国際会議へ)

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