研究概要

研究テーマ

微生物感染症学、感染免疫学、国際感染症

キャッチフレーズ

今後の人類の生存を脅かす「感染症」の真の理解は総合的な視点なくしてあり得ない

概要

人類の脅威となるグローバルイッシューのひとつに感染症(伝染病)があり、40年ほど前には一時、感染症は医学の発展により完全にコントロールでき、最早新たな感染症が現れることはないであろう、とすら言われました。しかしその後従来未知であった多くの新興感染症が次々と発生し、古いタイプの伝染病が先進国でも再興感染症として猛威をふるうようになりました。私は40年に亘り医学部で微生物感染症学の教育・研究に携わってきた経験と知見を基盤に、グローバル感染症の発生機序と社会背景、人間活動との深い関連を解き明かし、総合的観点から提言していきたいと考えております。

研究内容

1. 微生物の病原性と宿主免疫応答の相互関係

地球上に存在する微生物の多くは人工培地や組織培養で増殖させることが可能でありながら、ヒトや動物に感染症を引き起こすものは実は少なく極めて限られています。なぜごく一部のものが病原性を発揮でき、また伝染し流行を可能にするのか、そのメカニズムの解明は重要で、微生物生態学、分子微生物学、分子遺伝学、免疫学、公衆衛生学などを総動員したアプローチが必要です。ある病原体に関する特定の専門領域での実験研究であっても、総合的視点からの解釈や理解が新たな対応を可能にしていくはずです。

2.感染症の社会的背景と人間活動の関与

人類は古来、幾多の感染症(伝染病)に脅かされてきました。その背景には、大航海時代に始まる大規模な人的移動、貿易の拡大や、産業革命以降の急速な人口の都市集中と衛生環境の劣悪化などがあります。現在問題となる伝染性感染症の問題にも、航空機による移動の大量化・迅速化や食品を含む物資流通のグローバル化、森林開発による風土病の外界への伝播、渡り鳥などキャリアー動物の移動の問題、牧畜産業の巨大化やヒトとの接触機会の増大など、幾多の社会的・人的要因が深く絡んでいます。また、中世の地中海貿易の発達に伴ってみられた各種伝染病の伝播防止に考え出された検疫体制は、航空機の発達によって本来の機能を果たせなくなってきました。感染症はもはや狭い医学領域の問題ではないことを認識した上で、個別の感染症の発生や蔓延にどのような社会的・人的要因が介在するかを詳細に解析し、適切な対応を考えていく領域の構築を目指します。

求める学生像

感染症(伝染病)が今後大きなグローバル課題となること、加えて極めて社会学的な問題であることを認識した上で、そのコントロールに総合的包括的にアプローチできる人材を養成したいと考えます。医学の専門家である必要はなく、感染性微生物の基本を学んだ上で、医学的対応(ワクチン、抗微生物薬)の可能性と限界を知り、文献やリアルタイムの情報をもとに、背景因子を含めた本質を探ることに興味とやりがいを感じることのできる方を求めます。

経歴

1973年九州大学医学部卒業、4年間の内科臨床修練の後、九州大学医学部細菌学教室にて細胞内寄生性細菌(リステリア菌、結核菌など)の病原性と感染宿主免疫応答の研究を開始。1978年助手奉職の後講師昇任。1981年より1983年まで米国ハーバード大学医学部にてポスドク、1983年九州大学医学部細菌学助教授、1987年新潟大学医学部細菌学教授、1998年京都大学大学院医学研究科微生物感染症学教授、この間2008年より医学研究科長・医学部長を併任。2013年3月医学部を定年退職し4月より大学院総合生存学館(思修館)特定教授。2015年4月より京都大学白眉センター長及び次世代研究創成ユニット長を併任。

発表論文など(最近の研究英文原著、著書、総説)

  • Phosphorylation of ASC acts as a molecular switch controlling the formation of speck-like aggregates and inflammasome activity. Nature Immunology, 14 :1247-1255, 2013.
  • Type I interferon signaling regulates the activation of the absent in melanoma 2 inflammasome during Streptococcus pneumoniae infection. Infection and Immunity 82 : 2310-2317, 2014.
  • The adaptor ASC exacerbates lethal Listeria monocytogenes infection by mediating IL-18 production in an inflammasome-dependent and -independent manner. European Journal of Immunology 44 : 3696-3707, 2014.

  • 細菌と感染:現代生物科学入門5:免疫•感染生物学、岩波書店 2011.
  • 生体防御と感染:標準微生物学11版、医学書院、2013.
  • 感染免疫:病原微生物学—基礎と臨床、東京化学同人、2014.

  • 科学者集団の民度:臨床と研究 90:27-29,2013.
  • 自然免疫機構の解明—ノーベル賞と医学の進歩、最新医学 70:114-119, 2015.
  • 国境なき感染症に備える知のネットワークの10年を振り返る、最新医学 70:677-692, 2015.