人類進化論

サル化する人間社会

山極 壽一 YAMAGIWA Juichi
京都大学 総長

講義概要

現在、ヒトは地球上のあらゆる場所に進出して繁栄を極めている。それはヒトが文化や文明を発達させ、科学技術を駆使して適応力を拡大したためであるが、その能力は実はチンパンジーとの共通祖先と分かれてからの700万年に及ぶ進化の歴史の中にすでに表れている。
ヒトは類人猿の弱みを強みに変え、霊長類の常識をひっくり返して新たな能力と社会性を生み出したのである。その具体的な例として直立二足歩行、食物の分配と共食、肉食と大脳化、集団規模の増大と認知革命がある。それらの特徴が出現した背景とその影響力を解説しながら、現代にいたる人間性の由来についていっしょに考えてみる。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

現代は、ヒトが生物学的な性質を超えて、これまで経験していなかった世界へ飛躍しようとしている時代である。ゲノム編集と超スマート社会がその好例である。しかし、その一方で、これまで700万年をかけて作り上げてきた人間性、とりわけ五感に基づいたコミュニケーションが崩壊し、家族を基礎とした社会性が失われつつある。代わって台頭してきたのが、個人の利益を追求し、ネットを通じて個人を点で結ぶネットワーク社会である。それは、ヒトが持つ高い共感力を使う機会を減じ、ルールにのみ依存した社会の構築へと傾斜させる。それは一見、サルのような社会に戻るように見える。ICTを用いつつ、信頼関係に基づいた幸福な社会を実現するにはどうしたらいいか、ヒトの由来を振り返ることでその未来が見えてくるはずである。

講師プロフィール

経歴

第26代京都大学総長(2014年〜)。1952年東京生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。カリソケ研究センター客員研究員、(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、京都大学大学院理学研究科教授などを経て2014年10月総長就任。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長を歴任。日本学術会議会員、環境省中央環境審議会委員、日本アフリカ学会理事。1978年よりアフリカ各地でゴリラの野外研究に従事。現在はゴリラとチンパンジーが熱帯林の同じ場所でどのように共存しているか、他の生物といかに共進化してきたかを研究している。類人猿の行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。また、コンゴ民主共和国ではゴリラと人との共生を目指したNGOポレポレ基金を推進している。

著書

『ゴリラの森に暮らす』NTT出版(1996年)、『父という余分なもの』新書館(1997年)、『ジャングルで学んだこと』フレーベル館(1999年)、『オトコの進化論』ちくま新書(2003年)、『人間性の起源と進化』昭和堂(2003年 編著)、『ゴリラ』東京大学出版会(2005年)、『サルと歩いた屋久島』山と渓谷社(2006年)、『いま食べることを問う』農文協(2006年 共著)、『ヒトはどのようにしてつくられたか』岩波書店(2007年 編著)、『暴力はどこからきたか』NHKブックス(2007年)、『人類進化論』裳華房(2008年)、『ゴリラ図鑑』文渓堂(2008年)、『家族進化論』東京大学出版会(2012年)、『野生のゴリラと再会する』くもん出版(2012年)、『ゴリラは語る』講談社(2012年)、『「サル化」する人間社会』集英社(2014年)、『京大式おもろい勉強法』朝日新書(2015年)、『ゴリラは戦わない』中公新書クラレ(2017年)、『都市と野生の思考』インターナショナル新書(2017年)、『日本の人類学』ちくま新書(2017年)その他多数。