未来創成学への挑戦

想定外事態、人的失敗を前提とする学問創成

村瀬 雅俊 MURASE Masatoshi
京都大学基礎物理学研究所 准教授

講義概要

グローバル化時代を迎え、現代社会は、科学・技術・環境・教育・医療・政治・経済といった多様なシステムと人間が複雑に絡み合う巨大な「生きた」システムと化してしまった。その結果、私たち人類は、ミクロな素粒子の世界からマクロな宇宙の世界に至るまで、奇跡的な出来事を次々と可能にしてきた。ところが、その一方で、一部のシステムを最適化・効率化するあまり、全体システムが破綻しかねない脆弱性をはからずも生み出してしまうという予期せぬ事態に直面することになった。これがシュンペーターの有名な表現である「創造的破壊」に他ならない。社会全体としての「生きた」システムの複雑性や不安定性によって、ちょっとした出来事が大混乱を招いてしまい、あとになって隠れていた依存関係が明らかとなることが多い。切迫した問題は多様なシステムの境界領域で発生する。そのために、個々のシステムを深く理解していても、問題自体が発生することを予想することは不可能に近い。ここに異分野統合による新たな学問創造を目指す意義がある。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

本講義では、「ものの見方」を根本からみなおした上で、明るい未来を創成可能とする新しい「未来創成学」を構築し、身近な対象において実践的に検証していくことを目的とする。ここで、新たな「ものの見方」とは、自然災害などの想定外の事態が起こること、人間が間違いをおかしてしまうことを「前提」とした上で、学問の創成を試みることである。極論するならば、アンドリュー・ゾッリが指摘するように、失敗や誤りを必要とするシステムの基本原理を探求することが急務である。そのためには、一度に、一つの方法、一つの範囲、一つの尺度で行動するのではなく、ある部分領域に関心を向けるならば、それよりも小さな領域と大きな領域を並行して捉えるとともに、一つの領域の変化過程に関心を向けるならば、それよりも速く変化する過程と遅く変化する過程にも注目する必要がある。生物学、経済学、教育学、看護学、生態学という異なるシステムにおいて、それぞれ異なる研究者が似たような問題に直面している。そのため普遍的な枠組みができれば、ある分野で成功した方法を別の分野に応用する可能性が期待できる。それは「臨床経済学」「臨床環境看護学」といった新たな学問創成につながる。こうした発展可能性が「未来創成学」の醍醐味である。

講師プロフィール

経歴

1982年東京大学薬学部卒業、1987年東京大学大学院薬学系研究科薬学博士、1985年東京都老人総合研究所助手に採用、1987年-1988年アメリカデューク大学医学部生理学教室博士研究員、1988年 東京都老人総合研究所研究員に昇格1990年-1991年 カリフォルニア大学デービス校・数学科客員助教授、1991年東京都老人総合研究所主任研究員に昇格、1992年京都大学基礎物理学研究所助教授に採用、現在同研究所准教授。2007年湯川秀樹生誕百年記念事業国際シンポジウム「生命とは何か」主催、2009年ダーウイン生誕200年記念国際シンポジウム「進化とは何か」主催、2010年年京都大学統合複雑系科学研究国際ユニット連携推進委員、2011年京都大学国際フォーラム「新たな知の統合に向けて」を主催。物性研究・電子版編集長、国際教育学会 理事、国際複雑系研究所(International Institute for Complex Adaptive Matter)科学委員、2013年京都大学研究大学強化促進事業 学際・国際・人際融合事業「知の越境」2014-2015年 融合チーム研究プログラム-SPIRITS-、統合創造学創成プロジェクト・リーダー、2015年より 京都大学・研究連携基盤・未来創成学国際研究ユニット 研究推進戦略室・室長

著書

Masatoshi Murase “The Dynamics of Cellular Motility”Wiley( 1992)
村瀬雅俊『歴史としての生命-自己・非自己循環理論の構築』京都大学学術出版会(2000)