研究成果 沖縄本島および離島におけるSARS-CoV-2 IgG血清有病率(2020-2021年)。
水本憲治 総合生存学館(思修館)准教授らの研究グループは、2020年-2021年に沖縄県内の6医療機関で実施された血清抗体価調査について横断的血清調査を実施し、沖縄本島及び離島における抗SARS-COV-2 IgGの有病率を推定した。
沖縄の別々の医療圏域をカバーする6つの公立病院(沖縄県立中部病院、沖縄県立南部医療センター、那覇市立病院 、沖縄県立宮古病院、沖縄県立八重山病院 、公立久米島病院)の協力を得て、2020年7月から2021年2月までの3期に分けて、採血された救急外来患者の残余血液をもとに血清サンプルを収集し、合計2683検体の血清を得た。
本島では、1回目、2回目、3回目の血清調査で、それぞれ0.0%(0/392、95%CI:0.0-0.9)、0.6%(8/1448、0.2-1.1)、1.4%(8/582、0.6-2.7)であった。離島では、血清有病率は第2回調査で0.0%(0/144、95%CI:0.0-2.5)、第3回調査で1.6%(2/123、0.2-5.8)であった。
症例検出比*1では、第3回調査では本島で2.7(95%CI:1.3-5.3)、離島で2.8(0.7-11.1)であった。症例検出比は、本島では20~29歳(8.3、95%CI:3.3~21.4)、離島では50~59歳(14.1、2.1~92.7)で最も高く、感染症サーベイランスシステムではこれら大将軍の感染者を補足できていない可能性が示唆された。新興感染症流行時の血清調査は、症例検出比の算出により、感染症サーベイランスシステムの信頼性が検証できる。
2021年2月末時点では、縄県民の間で大規模な流行が発生していないことが明らかになり、流行の拡大が現実のものとなった場合、死亡リスクの高い高齢者を中心とした高強度の対策が必要となることが示唆された。さらに、新興感染症流行時、初期の血清学的研究およびサブグループ別の症例検出比の導出によって、感染症サーベイランスの信頼性の検証と共に、公衆衛生的対策を実施する意義を検討する根拠となる可能性を示唆した。
【連携】
本研究は、官学連携・他施設共同で実施された研究です。協力機関としては、沖縄県、病院(沖縄県立中部病院、沖縄県立南部医療センター、那覇市立病院 、沖縄県立宮古病院、沖縄県立八重山病院 、公立久米島病院)、大学(京都大学、北海道大学、広島大学(当時)、熊本大学/パスツール研究所、長崎大学、沖縄先端科学技術大学院(OIST))であり、責任著者は、沖縄県新型コロナウイルス感染症対策疫学・統計解析委員会*2委員長として、沖縄県のサポートにあたっていました。
第一著者の高山義浩先生(沖縄県立中部病院、沖縄県新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員)からいただいた、本調査実施の背景、また学術的意義等を以下に添えます。
発生当初、沖縄県の検査体制は脆弱で、2020年4月の第1波のときは1日あたり366検体しか対応できませんでした。その後、検査機関やOIST(沖縄先端科学技術大学院)の協力のもと検査体制を拡充させていきましたが、第2波のときには濃厚接触者への検査ですら制限せざるを得ない状況となりました。2021年2月には5338検体まで対応できるようになりましたが、それでも、検査体制は十分とは言えませんでした。また、当時は無症状者が検査希望しても数千円の自己負担が発生するため、若年者は検査が受けられない状況が続きました。
最大の課題は、パンデミック時における検査体制の迅速な拡充にありますが、ただ、受診者や濃厚接触者、渡航歴のある者への検査のみでは、感染の拡がりを捉えることは今後も難しいだろうと考えられます。とくに、COVID-19のように無症候感染者が多い場合には、より流行動態を捉えることが難しくなります。 そこで、県内の6つの公立病院(沖縄県立中部病院、沖縄県立南部医療センター、那覇市立病院 、沖縄県立宮古病院、沖縄県立八重山病院 、公立久米島病院)の協力をいただきまして、採血した救急外来患者の残余血液をもとに血清サンプルを収集し、3つの期間にわたって血清中のSARS-CoV-2 IgG抗体の有意率を調査することにしました。この方法は、調査のために採血を新たに実施する必要がなく、負担の少ない方法で、大まかに流行状況を、離島を含めて地域別に推定することができると期待されました。 結果として、2021年初頭までに沖縄全体での血清有意率は低く、とくに高齢者層には感染が拡がっていないことが推定されました。2020年の4月の第1波のあと、7月まで感染者が報告されない小康期がありました。このとき「検査体制が脆弱だから流行が捉えられていないのではないか?」との疑念を示されることがありましたが、私たちは科学的根拠をもって、流行は起きていなかったと説明することができました。 ただし、第3波以降の2021年2月になると、20~29歳の検出率が他の年齢層よりも高くなるという現象を認めました。これは医療機関から提出される発生届の集計とのギャップが存在することを明らかにしたもので、無症状や軽症のケースが見逃されている可能性が疑われました。このことは、今後のパンデミック対策において、発生届だけによらないモニタリングシステムと効果的な介入策の必要性を浮き彫りにしたと思います。 研究の限界として、救急外来患者を対象としたことによる選択バイアスが存在する点が挙げられますが、本研究によって、パンデミックにおける血清サーベイの重要性が明らかになり、都道府県レベルでも迅速に構築できることが示せたと思います。速やかに予算を確保してくれた沖縄県企画部科学技術振興課の皆さん、抗体検査を開発し請け負ってくれた沖縄科学技術大学院大学の皆さん、そして研究に協力いただいた公立病院の先生方、検体を提供いただいた沖縄県民の皆さんに心から感謝いたします。 |
*1: 症例検出比 (Case detection ratio) 血清調査によって推定された感染者数を、サーベイランスシステムを通じて報告のあった確定症例数で割った指標。この指標は地域社会における確定症例1人当たりの感染者数を示し、値が高いほど未報告の感染者が多いことを示す。
*2: 沖縄県新型コロナウイルス感染症対策疫学・統計解析委員会
https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/406/03kouseiinmeibo_1.pdf
査読有り
Takayama Y, Shimakawa Y, Aizawa Y, Butcher C, Chibana N, Collins M, Kamegai K, Kim TG, Koyama S, Matsuyama R, Matthews MM, Mori T, Nagamoto T, Narita M, Omori R, Shibata N, Shibata S, Shiiki S, Takakura S, Toyozato N, Tsuchiya H, Wolf M, Yamamoto T, Yokoyama S, Yonaha S, Mizumoto K*. SARS-CoV-2 IgG seroprevalence in the Okinawa Main Island and remote islands in Okinawa, Japan, 2020-2021. Jpn J Infect Dis. (2024). (Advance Publication) doi: https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2023.255
その他の業績等
Google Scholar: Kenji Mizumoto
https://scholar.google.co.jp/citations?view_op=list_works&hl=ja&hl=ja&user=OW5PDVgAAAAJ&sortby=pubdate