京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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ニュース エネルギー資源研究会・東京電力・日立製作所合同スタディーツアーin北海道(2024年7月8日、9日、10日)

文責:ああああああああああああ
長山浩章教授あああああああああ
河村晴実(GSAIS3年)ああああa
クリナ・ジャニ(GSAIS2年)あa
ファイカ・フアド(GSAIS1年)a

はじめに

2024年7月、総合生存学館(以下「GSAIS」という。)の長山浩章教授と学生3名が、東京電力の担当者4名、日立製作所担当者とともに北海道での合同スタディーツアーに参加しました。7月8日、9日の両日、参加者8名は苫小牧CCS実証試験センター、北海道北部風力送電株式会社北豊富変電所、日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センター、ユーラス道北風力芦川ウインドファームを訪問しました。7月10日には、3名の学生が北海道大学植物園と北海道コカ・コーラボトリングの施設での調査を行いました。

セッションはすべて日本語で行われましたが、長山教授、河村晴実(GSAIS3年)、そして東京電力の参加者が同時並行で英語通訳を行い、2人の留学生、クリナ・ジャニ(GSAIS2年)とファイカ・フアド(GSAIS1年)は現場の状況を把握し、理解することができました。

7月8日: 苫小牧CCS実証試験センター

日本CCS株式会社(JCCS)は、北海道苫小牧市で大規模な炭素回収・貯留(CCS)実証プロジェクトを実施しています。JCCSは日本政府の委託を受け、様々な業界(電力、石油・ガス、石油化学)の日本企業33社が株主となっています。プロジェクトは2012年に開始され、日本各地での調査の結果、115の候補地から実施場所が絞り込まれました。2015年に設計・建設などの準備が完了し、2016年にCO2圧入が開始され、2019年にはプロジェクトの目標であるCO2累積圧入量30万トンを達成しました。

本プロジェクトは、沿岸部の製油所の水素製造装置からCO2を分離・回収し、貯留まで行う、日本初の一貫したCCSプロジェクトです。回収されたCO2は、苫小牧港の海底下1~3kmの貯留層に圧入されます。累積圧入量30万トンの回収・貯留に成功した後も、圧入されたCO2の挙動を継続的にモニタリングし、排出漏れがないことを確認しています。


集合写真1:苫小牧CCS実証試験センターにて:GSAIS河村晴実(3rd Year)、クリナ・ジャニ(2nd Year)、ファイカ・フアド(1st Year)、長山教授、JCCS山岸様、東京電力の皆様

苫小牧CCS実証施設を訪問し、このような技術や施設に関連する機会やリスクとともに、施設がどのように機能するかを理解できたことは、またとない経験でした。現在のモニタリング段階では、微小地震や地震の観測(そしてそのような発生がプロジェクトにどのような影響を与える可能性があるかの検討)、プロジェクト地域内の海洋生態系の健全性の観測も行っていると聞き、安心しました。また、苫小牧の地域住民の信頼と理解がプロジェクトの重要な目的であると考えられていることも興味深かったです。この実証プロジェクトから得られた情報は、日本のみならず世界中のCCSプロジェクトにとって貴重かつ実践的な教訓となります。CCSの専門知識が世界的にまだ乏しい中、このプロジェクトで培われた才能は、さらなる知識の共有と移転のために実に重要です。

経験と知識の抱負な担当者による詳しい解説とともに、設備や実験内容について、理解を深めることが出来ました。試験において施された工夫や得られた知見は、大変興味深かったです。2018年に地震が発生した際には、迅速に調査を行い、地震との関連のなさとCO2漏洩がないことを確認して早急に情報を発信したエピソードが非常に印象的でありました。地域住民の理解を得ながら実験を行うときに重要な姿勢を学びました。

このセンターへの訪問は、特にエネルギー産業やCCS関連のトピックを研究している学生にとって、素晴らしい機会となりました。JCCSの職員とのブリーフィング、現場見学、質疑応答から、苫小牧CCSの目的、歴史、教訓を学ぶことができ、これらは、今後、日本や世界各地で他のCCSプロジェクトを研究・実施する上で、非常に実用的な情報となりました。

7月9日:北海道北部風力送電北豊富変電所

北海道北部は日本有数の風力発電適地であり、設備利用率が極めて高いです。日本の持続可能な社会への取り組みを加速させるため、大規模な風力発電所の建設が進められています。今回の視察では、北海道北部風力送電株式会社北豊富変電所を訪れ、風力発電所で発電されたエネルギーがどのように管理され、道北地域に送電されているのか、また、芦川ウインドファームでは、風力発電設備がどのように設置されているのかを学ぶことができました。

北豊富変電所では、会議室で住吉亨代表取締役社長、松尾敏送変電業務部長、池田正人電気主任技術者から説明を受けた後、敷地内を見学しました。

北海道北部の豊富町にある北豊富変電所は、北海道北部風力送電株式会社によって運営されています。2013年に経済産業省資源エネルギー庁の「特定風力集中整備地区」としての公募補助事業に応札して落札した北海道北部風力送電株式会社が2016年に送電事業ライセンスを取得し、2018年10月から着工、2023年4月から商業運転をしています。ここは日本最大のリチウムイオン蓄電池施設で、240MW×3時間(720MWh)の蓄電池を備えています。風力発電による電力を道北の一部地域に供給し、気象変動による出力変動を抑え、系統の安定化に貢献しています。同変電所につながる風力発電所はFITで、北海道電力に売電しているが、契約当時の北海道電力の出力変動緩和要件 及び、北電ネットワーク西中川変電所における接続上限の300MWがあるため、蓄電池を利用し、出力制御システムで最大300MWに抑制し、北電ネットワーク西中川変電所に送電しています。出力540MWの風力発電所9カ所が同社の送電線に接続される予定です。現在、9カ所のうち7カ所が完成しています。本事業の成功要因の一つとして、開発時にはまだ発送分離の行為規制が導入されていなかったため、発送一体で検討でき、ほぼ同時に運開できたことがあげられます。また送電用地取得の交渉が、JR,河川、保安林等の横断がありもっとも大変であったとのことでありました。

1 1日の4つの時間帯における長周期とその他、低周期の出力を安定させれる要件(出所:平成28年度資源エネルギー庁系統WG 資料3「北海道エリアにおける風力発電の連系について」 平成28年10月14日  北海道電力株式会社

 
写真(左)北海道北部送電株式会社全容(同社パンフレットより)
集合写真2(右):北海道北部風力送電北豊富変電所にて:GSAIS河村晴実(3rd Year)、クリナ・ジャニ(2nd Year)、ファイカ・フアド(1st Year)、長山教授、日立製作所山田竜也様、東京電力の皆様


7月9日:ユーラス道北風力芦川ウインドファーム

芦川ウインドファームの事務所にて、風力発電所建設の指揮をとる清水建設の舘崎 真司所長、太田 佳佑氏、大坪 孝一郎氏よりブリーフィングをいただいた後、風力発電設備の設置現場を見学しました。風車設備はスペインに本社を置くシーメンス製で、海外スタッフも働いていました。天候(特に風)による施工不可日を除いて、タワーを立てるのに4日、ブレードをハブに接続するのに1日、組み立てたものを引き上げるのに1日ずつかかるとのことでした。風車の大型化に伴い、クレーンや運搬車両も大型化が必要とのことで、欧州のメーカーが陸上風力用に大型化したものや技術的に使い勝手のよいものをつくっているようでありました。清水建設も将来の6M機風車用に、新しいクレーンを開発試験していました。

 
芦川ウィンドファーム(1400tタワークレーン実証試験中/清水建設) 建設中のタワー(1400tタワークレーン)

本施工用の大型クレーン(1200tATC/独リープヘル社製)
 
(左図)稚内における風力発電所地図(下は北海道電力ネットワーク西中川変電所に至る)
(右写真)視察の翌日に設置が予定されていた風力ブレードの前で

 
清水建設の方に風力設備設置の説明をいただく

表 ユーラス道北風力芦川ウインドファーム

注:①②⑤⑪は北海道電力ネットワークに直接接続、その他は北海道北部風力送電に接続

現場訪問は、全体としてとても刺激的で素晴らしい機会となりました。風力発電や持続可能なエネルギー問題解決策の必要性について学んでいることの理論的な側面が、現場を訪問することでより明確になりました。

風力発電の出力の波をカバーしながら実用化するために必要となる仕組みを、実際に目にしながら学ぶことのできる貴重な機会でありました。部屋一面に整然と並ぶ大量の蓄電池には圧倒されました。発電設備の設置現場においては、実機を前に、運搬・設置など運用前に必要なプロセスを学ぶことが出来ました。ブレードを間近で見て、すっきりとした外観の中に施された雷対策などの仕掛を観察することが出来、興味深かったです。変電所へ先進的な事業を視察に来る人で地元への訪問者が増えているとのことで、再生可能エネルギー導入による地域への波及効果も感じられました。

7月9日:日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター ゆめ地創館

日本原子力研究開発機構が支援する幌延深地層研究センターは、地下深部における高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に焦点を当てた注目すべき研究開発センターです。

 

本施設では、地下の保存場に降りているかのような体験ができるエレベーターや、地下の作業場のようすを立体的に観察できるバーチャルマップなど、臨場感あふれる設備とともに、最先端の技術について実感を持って学ぶことができました。放射性物質をガラスと一緒に固めて地下水に溶けだしにくくし、厚い金属容器に入れ、さらに水を通しづらい粘土の緩衝材で覆った状態で地下に処分する方法が検討されているとのことで、実際の金属容器と粘土素材を目にしながら、検討されている種々の設置方法を学ぶことができました。

特に印象的で興味深かったのは、周辺地域や一般来訪者に簡単かつ効率的に伝えるためのさまざまな取り組みが行われていることでした。施設自体の外観は親しみやすい雰囲気で魅力的であり、このような研究の目的や技術の仕組みに関する様々な説明が、紙ベースの資料とインタラクティブな展示の両方で用意されていました。北海道のエネルギー・プロジェクトでは、地域社会の受容と関与が重要な焦点となっているようです。

7月8-9日:産学ネットワーキング

ユーラスエナジー(加藤潤稚内支店長、林勝統括プロジェクトマネージャー)に稚内の事業環境につき、お話を伺うことができました。稚内の風力資源は日本の中でも屈指であり大きな開発ポテンシャルがあることを実感しました。

7月10日:北海道大学植物園 北方生物圏フィールド科学センター植物園博物館

スタディーツアーの最終日、学生たちは北海道大学植物園と北海道コカ・コーラボトリングの2カ所を訪れました。

最初に訪れた植物園は、土地の生命に感謝し、環境保全と土地の持続可能な利用の重要性を再認識できる、教育的な役割を持った素晴らしい場所でありました。植物園にはさまざまな美しい植物が植えられており、札幌の中心部にいながら、マインドフルネスを実践に適した静かで穏やかな環境を体験することが出来ます。植物園では、さまざまな庭園を探検したり、北海道の動物の歴史を学んだりするだけでなく、北海道に住むアイヌ民族についても学ぶことができました。

園内にある北方民族博物館(アイヌ民族博物館)には、アイヌ民族の文化や衣服、住居、音楽、狩猟、儀礼に使われた材料など、数々の興味深い資料が展示されています。これらの資料から、サケの皮やアザラシの皮で靴を作ったり、鳥の皮でコートを作ったりするなど、北方民族がいかに周囲の環境に依存して日々の生活を営んでいたかを学びました。また、「民族植物園」では、アイヌの人々が衣服や薬用、料理、染色などに効果的に活用していた様々な種類の植物が展示されており、興味深く見学しました。今回の訪問を通して、学生たちは自然に対する感謝の気持ちを深め、人間の生存のためには人間を取り巻く環境が重要であること、そしていかに周囲の環境に適応していくかが重要であることを改めて実感しました。

本植物園では、ここまでの視察とは違った形で北海道の環境を知ることができ、とても豊かな時間を過ごしました。北海道の豊かな動植物だけでなく、アイヌの人々に受け継がれてきた知恵の一端に触れることができました。身の回りの生命に向き合い、衣食住全てにおいて直接的にその恩恵を受けていた生活の様子からは、多くの新鮮な学びを得ました。風力資源などを活用した未来への取り組みと、北海道で長く受け継がれてきた文化と、かかわり方に変化はあるが、我々は常に環境に支えられて生きているということを深く感じました。

7月10日:北海道コカ・コーラボトリング株式会社

最後に、学生たちは北海道コカ・コーラボトリング株式会社にて、60分間の工場見学ツアーに参加し、さまざまな飲料製品を製造するために用いられる驚くべき設備や、製品が製造ラインから輸送・流通ラインへと移動する様子をガラス越しに見学しました学生たちはまた、1886年の創業以来のコカ・コーラの歴史や、ブランドが現代文化のさまざまな側面に与えた影響についても学べる内容となっていました。

この日見学したのは、完成品を製造するラインでありました。本工場の生産工程で出るごみの大部分はコーヒーの出し殻だそうで、その出し殻をアップサイクルし、石鹸などのバスグッズを扱うブランド事業にも取り組んでいるといいます。飲料と容器は同時に製造され、充填され、箱詰めされて、倉庫へと運ばれていきます。機械が目覚ましいスピードで作業を進め、室内には、ほとんど人がいません。箱詰めされた製品は幅約80m、奥行き約100m、高さ約31mという巨大な倉庫にストックされており、その規模の大きさに圧倒されました。本工場の製品は、基本的に北海道内へと出荷されていきます。道内に設置された電光掲示板付き自動販売機では、警察からの情報など、地域住民に向けた情報を配信しているといいます。災害時には遠隔操作で自販機内の飲料を無償で提供する設定に切り替えられるらしく、地域に貢献する取り組みについても知ることが出来ました。

ツアーの最後には、普段見かけないガラス瓶に入ったコカ・コーラやコカ・コーラガラス瓶専用の自動販売機でコカ・コーラを試飲し、北海道でしか販売されていない味の他の飲料も試すことができました。ペットボトルの形状に膨らむ前の状態のプラスチックや、リサイクルのために粉砕したプラスチックに実際に触れながら、コカ・コーラのサステナビリティへの取り組みについて学び、本スタディーツアー最後の見学を終えました。

結論

北海道をめぐるこのスタディーツアーで、学生たちは数々の貴重な学びを得ました。CCS技術の研究開発のためのJCCS(他の団体と共に)への国からの委託、高レベル放射性廃棄物貯蔵実証サイト(幌延深地層研究センター)、送電・蓄電池施設への政府の支援など、よりクリーンなエネルギーの未来を推進する上で、日本政府の役割がいかに重要であるかを学びました。視察に向かう道中では、風力発電施設以外にも、複数個所でソーラーパネルが見受けられ、牛、蝦夷鹿、キツネなどの動物が歩き回り、美しい緑が広がる風景を見ることができました。また本スタディーツアー中、参加者たちは美味しい魚介類、メロン、トウモロコシ、ジャガイモ、牛乳など、北海道の様々な特産品を通しても、北海道の資源の豊かさを体験することができました。

また、今回のスタディーツアーは、実務者から情報や知識を交換する貴重な機会となりました。例えば、学生たちは、日本国内における地域間電力融通を改善するための東京電力の取り組みについて学びました。このトピックは、2011年の東日本大震災で複数の発電所が停止を余儀なくされ、東日本への電力供給に影響を及ぼした日本の経験を踏まえ、非常に重要です。異なる関係者間の協力の重要性や、それが人々にとってより良いエネルギー政策につながることなど、本研修を通じて学際的研究の一つの側面を学ぶことができました。

今後GSAISでの研究を通じて、環境保全に重点を置きながら、人類が住みやすい環境で生存し続けるために、持続可能なエネルギーの必要性と、CO2排出量の少ないエネルギーを使用するなどのエネルギー政策のバランスを考慮し、学際的な良い研究を行っていきたいと思います。

京都大学大学院 総合生存学館

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