教員コラム<長山浩章教授>
マクロミルの岸原先生にマーケティングリサーチの実際と台湾のビール事業のケーススタディの講義をいただきました。
私の講義している「SDGs下で求められる経営戦略(ケーススタディ)」という一連のテーマの中で学外講師として、マクロミルの岸原先生に2024年5月23日(木)に講義をお願いしました。グローバルマーケティング事例のケーススタディと、マーケティングリサーチ講座の2コマで実施いただきました。
参加した博士課程の学生は8名、国籍は日本、中国、マレーシア、モザンビークの4か国。各専攻のバックグランドも、化学工学、MBA、コミュニケーション管理、比較経済政策、分子生物学、臨床検査医学、機械工学、都市計画など様々。現在の研究テーマや将来の貢献分野も、エネルギー政策、炭素回収・貯留、気候変動、有人宇宙開発、情報科学、地域ブランディング、古典普及と多岐にわたります。中国黄河の治水改善やアフリカ南部のエネルギー転換などです。
図1 (左がマーケティングリサーチクラス、右がグローバルマーケティングクラス)
2.講義内容:
(1)マーケティングリサーチ講座(座学+質疑応答 90分)
この講義はどのように調査を設計しアンケートやインタビューを行うか、またその解釈や活用などという実務については基礎からもう一度学んでもらおうと企画しました。実際博士論文執筆の過程においても学生は研究を進める上で質的分析(インタビュー技術など)と量的分析(アンケートを行った上での分析手法)の両方の技術を求められます。マーケティング関係の場合は、各地域や産業における現状の持続可能性や、持続可能な商品やサービスへの需要や消費者の嗜好を理解することや、事業やプロジェクトに対する投資機会を特定するヒントにします。政策研究の場合は、政策やイニシアティブの効果を把握し必要に応じて調整を行う必要があります。
そこでマクロミルの「マーケティングリサーチ基礎講座」の英訳版を作成し、リサーチの目的、企画、調査票設計、クロス集計について順を追って説明いただきました。
図 教材の目次例
体系だった整理がされた教材で大変学生の研究手法を見直す上で大変、参考になりました。
(2)ケーススタディ(ケース討議 90分)
・内容
台湾におけるビール市場の歴史・変遷から、台湾地震という大きな環境変化により台湾のビール市場構造が大きく変わった状況で、実際にキリンの担当者はどのようにその現実に対応したかにつき「あなたが、そのとき台湾にいたらどういうOPTIONがあったか?」「さらに新商品をつくるならどういういった視点で考えるか?」という問いを学生に提示し、学生に解決策を提示させるという実践的なものでした。
学生は本講義を通じて、既存上市製品と新製品の特徴が被ってはいけないカニバリゼーションの問題や、台湾においてキリンが開発した製品が20年以上も人気を持ち続けている持続可能性の理由について考える機会をいただきました。こうした経験は彼らには初めてだったようで、大変好評な授業でした。
総合生存学館には博士課程修了要件の一つとして、自分でプロジェクトを立ち上げるPBR (Project Based Research) というプログラムがあり、今回の講義もそのための大きなヒントを得たようです。
図 台湾ビールのケーススタディ目次
3.博士課程の学生、教授からのフィードバック。
(1)マーケティングリサーチ講義
「講師の業界経験を活かした説明は非常に体系的である。マーケティングに限らず、プロジェクトのガイドラインやプロセスの改善など、多くのステークホルダーや社員が関わる中で、正しい課題解決につながるかを確認するために応用できるので非常に有益な講座だった。」
「他大学でMBAを取得したときのマーケティングの授業を思い出した。当時この講義があればマーケティング・プロジェクトの研究をする際にとても役立っただろう。今後この講義から、多くの学生が恩恵を受けると思う。」
「アンケートの実施方法や手法がとてもわかりやすく、研究活動に役立つ情報ばかりで参加して良かった。
復習し実際にアンケートを作ってみようと思う、その際にはぜひまたご助言いただきたい。」
(2)ケーススタディ討議
「授業が双方向的で、「枠にとらわれずに考える」ことや、合理的な思考だけでなく創造性大切にするように促してもらえたことがよかった。また、岸原先生の「100%の確信が持てない決断をすることを恐れてはいけない。」というメッセージは、私自身の一連の研究また私のキャリアの中でも大切であり共感した。この講義は意思決定における人間主導のニーズに重点を置いているという点で有用。自身の目指すエネルギー持続可能性の実現のための意思決定の際には気候だけでなく、人々のエネルギーニーズも考慮する必要があるからだ。」
「国際事業担当者自身が実務としてかかわった事例だったことから、直面した問題の重大さがより伝わったため、より興味が湧き当事者感覚で前のめりで双方向の暮らすディスカッションに取り組めた。将来、現実に直面する複雑な問題を捉えて課題解決する洞察に満ちた意思決定スキルの学びがあった。」
挿入図2 授業の様子
結び
合計3時間にわたる講義のあと、築100年超の京都伝統町屋を再生させ人が集い新しい文化を創造しているキリンのクラフトビール醸造所施設の見学後に併設レストランで食事しながら、SDGsの未来構想や将来の夢を語りあいながら懇親を深めました。
挿入図3