京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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遊聞会便り(第18号)

佐伯直樹(H25年入学)
公益法人日本離島センター

東京・永田町にある日本離島センターという公益法人で働いて4年になりました。思修館プログラムを全うできたとは言えない形で大学を離れた私ですが、在学中に培った力、得た知見を活かして日々過ごせている実感があります。
さて、今回遊聞会便りの執筆を受けさせていただくタイミングで、入社以来携わってきた大きな業務の一つに区切りがつきました。本年11月22日に刊行した新版『日本の島ガイドSHIMADAS(シマダス)』は島国・日本を構成する約1,750島について、来し方と有りようを記録した1冊です。特に400を超える有人島については面積や人口といった基本情報はもちろん、暮らし、観光、文化、制度とできる限り多くの視点・切り口で島を捉えようと試みています。
本書の編集を通じて改めて島によってもたらされている我が国の多様性に気づくとともに、島が海の向こうとの関わりによって成熟してきたこと、一方で守り抜くべきものを守ってきたことを再確認しました。そして、そんな島の魅力を多くの方々にお伝えしたいとの思いを強くしています。
 
私の地元・山口県周南市には大津島という有人島があります。新幹線が停まる徳山駅から徒歩数分で徳山港、そこから高速船で20分足らずの位置にある人口約230人の島です。第二次大戦中は、人間魚雷「回天」発射訓練基地が置かれたことでも知られています。ただし「回天の島」というイメージだけで語られるのはもったいない。島で育てているスダイダイという柑橘を活用した地ビールの開発・販売、Uターン者らによる食堂の経営、都内の大学生による地域活性化に向けた関わりなど、新しい取り組みも進んでいます。また、島の魅力に惹かれて、移住する人もいます。ネコの島、コンブの島、金山の島などのフレーズは島に興味を持つ入り口に過ぎません。「〇〇の島」の先にある島の奥深さをぜひ知っていただきたいと思っています。
島の外にいて、島のことを応援するだけではなく、仕事柄、島にお住まいの皆さんの代弁者となる必要もあります。そのためにも、日常的に島の方々のお話を伺い、課題や悩みについて相談を受けたり、それにまつわる背景知識の勉強をしなければなりません。それぞれの島が置かれている状況はさまざま。そして、まさに分野横断型の課題がそこにはあります。医療でいえばテレビ診療、教育では離島留学、農業ではイノシシ対策、産業振興では六次産業化…島の数、暮らしの数だけ課題があるものです。他分野の専門家と共同で取り組んでいきます。
 
もう一つ、私に任せていただいている大きな仕事の一つが、年報として公表している離島統計の取りまとめです。統計はまとめられたものを利用する立場でしたが、自身がまさか提供する立場になるとは。島の人口、面積といった基本情報から、農業や漁業といった産業の様子、医療や教育の現状など項目も多岐にわたります。またそれを活用する研究者やビジネスマン、マスコミの方々からの問い合わせにも適宜対応しています。
島という切り口で、多種多様なきっかけとご縁をいただいています。また皆さんと再会した際にも島を切り口にいろいろお話できればと思います。
 
2019年11月20日


新版 日本の島ガイド『SHIMADAS』
 

実家そばにある無人島。
この島にももちろん歴史がある。
 

神津島の天上山から望む伊豆諸島の島々。
島は海もいいけど、山もいい。
 

山口県最北・見島からの帰り道。

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