寶 馨(現職員)
総合生存学館(思修館)学館長・教授

 博士課程教育リーディングプログラムが平成23年(2011年)に開始される時、私はオールラウンド型の「京都大学大学院思修館」のメンバー(プログラム担当者)として想定されていました。ところが、同年3月11日に東日本大震災が起こり、同プログラムの複合領域型に「安全安心」分野が急遽付け加えられました。当時、防災研究所におりました私は、この安全安心分野において9研究科(25専攻)3附置研究所で提案する「グローバル生存学大学院連携プログラム」(GSS)のプログラムコーディネーターを務めることとなりました。幸い、両プログラムとも採択され、2018年3月に7年度にわたるプログラムを終えました。
 その間、2012年の設置審(大学設置・学校法人審議会)の審査を経て、2013年4月から総合生存学館(思修館)が京都大学で18番目の大学院として設立され、すでに8人の博士(総合学術)を輩出しました。大学院設立前の2012年度には、既存研究科からの学生諸君を思修館プログラムで受け入れ、プログラム修了者として2名の博士を出しました。まだ修了までには至っていないものの国連機関、国際機関や企業等の実社会で活躍している人もいます。
 私は、2017年初めに、総合生存学館の学館長に推され、同年4月から着任しましたが、同年度中は防災研究所教授と併任、GSSのプログラムコーディネータをも務めておりました。2018年4月から、教授としても総合生存学館に移籍し、思修館プログラムのプログラムコーディネーターも川井秀一教授より引き継ぎました。同時に、GSSのプログラムコーディネーターは、生存圏研究所の塩谷雅人教授が引き継いでくださいました。
 こうした経緯で、結局、思修館プログラムに戻ってきたような形になりましたが、この間、同窓会組織「遊聞会」が2017年夏に設立され、今年で3回目の総会が行われたことはご同慶の至りです。思修館に席を置かれた学生諸君、教職員の皆様、在学生諸君が折に触れて集い、この思修館の理想とする素晴らしい取り組みのフォローアップと発展を期す、ということはたいへん重要なことであります。「遊聞会」がますます発展することを期待しています。私自身も、そのために尽力して参りたいと存じております。
 さて、「思修」、「遊聞」という言葉について、振り返ってみましょう。高野覚昇「般若心経講義」より、以下の一節を抜粋いたします。
『・・・(前略)・・・仏教では一口に、智慧と申しましても、これに三種あるといっております。聞慧(もんえ)と思慧(しえ)と修慧(しゅうえ)との三慧がそれです。すなわち第一に聞慧というのは、耳から聞いた智慧です。聞き嚙りの智慧です。智慧には違いありませんが、本当の智慧とはいえません。次に思慧とは、思い考えた智慧です。耳に聞いた智慧を、もう一度、心で思い直し、考え直した智慧です。試作して得た智慧です。すでにいったごとく、カントは、教えている学生にむかって、つねに哲学することの必要を叫びました。
「諸君は哲学を学ぶより、哲学することを学べ。私は諸君に哲学を教えんとするのではない。哲学することを教えるのだ」
といったと、伝えておりますが、そのいわゆる哲学することによって得た智慧が、がこの思慧に当たると思います。だから思慧は哲学の領分です。次に修慧とは、実践によって把握せられた智慧です。自ら行ずることによって得た智慧です。したがってそれは宗教の領分です。語るよりも歩むというのがそれです。その昔、覚鑁(かくばん)上人(興教大師)は、「もし自分のいうことがうそいつわりだと、思うならば、自ら修して知れ
といっていますが、その修するというのが、この修慧です。だから三慧のうちで、この修慧がいちばんほんとうの智慧です。』
 
 思修館で学び終えた人たちは、この「聞・思・修」のプロセスを一通り完了したことになります。ただし、人生は学びの連続です。次のステージでまた「聞・思・修」のプロセスを繰り返すことでしょう。そして、さらにその次のステージでも。このように、自ら聞いて、自ら思い、自ら修める、ということはまさに自主創造の精神であり、京都大学総長室に掲げられた木下廣次初代総長の揮毫「自重自敬」にも通ずるものです。
 「聞」に帰し「思修」を極め、人格を養いつつ人生を楽しむ。「遊」は享楽のみを指すのではありません。Play hard, play fair. という言葉がスポーツでよく用いられます。まさにこの play が「遊」です。このplay はwork とも書き換えられます。「遊聞」という名前は、まさに思修館の同窓会組織にふさわしい味わい深い名前だと思います。
「聞」に帰し、そして、思修館にしばしば帰って来てください。
 
2019年09月05日


ユネスコバンコク事務所前で
(2019年2月)
 

麗水・韓国水資源学会で
(2019年4月)