京都大学大学院総合生存学館(思修館)

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遊聞会便り(第14号)

総合生存学館(思修館)教授
山敷 庸亮

みなさまいかがお過ごしですか?
私は設立当初からの教員として思修館の一員として勤務させていただき、早7年目となりました。準備構想から数えると8年になり、時の流れを感じるとともに、皆様方の活躍を非常に頼もしく思っております。選ばれた当時、随分難題ばかり言われました。「トップ中のトップの学生の育成」「国連機関への進路の開拓」「比類なる語学力の研鑽」「総合生存学の確立」「我が国の企業の次の時代を担う人材」などなどです。果たして7年たち、その目標は達成されたのでしょうか?いろいろ意見はあるでしょうが、ほとんどは達成されたと思っております。すべて卒業生の皆様のおかげです。私は教員の一人として、今まで主に国連機関との連携推進を進めてまいりました。全学協定に至り、OBから正規職員が誕生しているFAOや、いままで何人もの学生の武者修行先となったUNDPの他、最初に締結したUNEP (UN Environment)とも、昨年秋から再締結が協議されております。またつい昨日野村亜矢香さんのおかげでFAOとの共同プロジェクトの立ち上げが行われようとしています。また、寶馨学館長のご尽力もあり、UNESCO-Chair WENDIも立ち上がり、正式にコースが始まりました。そのほかに、大学院生の関大吉さんを派遣しているケンブリッジ大学生存リスク研究センター(CSER)、藤村奈々緒さんを派遣しているスタンフォード大学ホプキンズ海洋研究所、カリフォルニア大学タホ環境研究所(TERC)のほか、現在NASAゴダード宇宙飛行センター(NASA/GSFC)との締結準備を進めており、2019年5月末に10日間宇宙総合学研究ユニットを通じてVladimir Airapetian博士を招聘いたしました。博士は学館で開催された環境災害研究会のゼミにも参加し、広く学生達と交流をもつと同時に、我々とNASAとの共同研究でもいよいよ論文が出る段階となりました。またもう一つ、黒木龍介さんを過去に2度派遣したアリゾナ大学にて、人工隔離生態系バイオスフィア2を用いた有人宇宙実習:SCB2が立ち上がり、2月のパイロットキャンプ実施を経て、今年8月に正式なスペースキャンプが実施される運びとなりました。小職が直接関わっている上記を含め、思修館が行なっている国際機関や海外の大学との連携の数は、他のどこの機関にも負けないほどになってきたのですが、重要なのは、これらの連携は派遣する学生がいなければ、あるいは共同研究がなくなれば自然消滅してしまうことです。そのためにも、今後興味を持ち羽ばたいていただける学生をどれだけ集め育てて行けるかが鍵だと思っています。
 
さて、そのような中、一つ大きなお叱りを受け続けてまいりました。それは「企業への学生派遣」において、学館による十分な支援体制が出ていなかったことです。むろん卒業生は自分たちの力で企業の就職先を開拓し、素晴らしい進路を歩んでいるのですが、もともとの設立時に松本紘前総長が「思修館でリーダー教育を受けた学生を我が国の企業が放って置くはずがない。」とおっしゃっておられた言葉を実現するためには、我々の側で企業により一層の働きかけをする必要を痛感しておりました。
 
そのような中、2018年より、博士課程大学院生の就職率100%達成を掲げて、一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構(CEO)が設立されました。これは、大学院博士課程で研究に時間を砕いてきた優秀な人材を参画企業での7週間のインターンを通じてデータサイエンティストとして実データを用いた実践教育を行い、将来の大きな戦力として相当の立場にて雇用し、企業の国際競争力を高めよう、という壮大なプロジェクトです。小職は設立当時から関わらせていただきましたが、なぜ私が関わらせていただいたか?というところが重要です。もちろん事前の人的ネットワークもあったのですが、設立の中心的メンバーである北川高嗣理事(筑波大学教授)、宮内淑子専務理事らがリーディング大学院としての「思修館」の試みに非常に興味を持ち、高く評価されておられた、ということです。また、CEOの理事長は望月晴文氏で、元経済産業省事務次官として思修館の設立にご尽力いただいた方であるとともに、現在も特任教授として熟議を担当いただいております。昨年度のCEO設立以来、先に民間に就職を決めた周敬棠さんに窓口になっていただき、学館卒業予定者で企業に就職を希望する大学院生を広く募り、結果的に高橋朝晴さんがJX金属でのデータサイエンティスト研修を受けてくれました。彼は教育学を専門としていたにも関わらず、Pythonでの深層学習を用いた焼却炉の温度予測の現場で優秀な成績を収め、無事研修を終了、今年から複数部署の主任として活躍、今年はリクルータとしても活躍され、先日のCEO認定式では受講生代表として講演し、日経新聞を含む複数のメディアで紹介されました。さて、彼がCEOの研修をうけるきっかけは本当に「偶然」ともいえることで、彼のアフリカでの調査中にメールでやり取りをしました。私は、「彼は語学が得意なので、コンピュータ言語も得意になるに違いない」と「信じ」て送り出しましたが、期待以上の成果を上げてくれました。彼の活躍のおかげで、JX金属は来年も思修館からも優秀な学生を欲しいとの言葉を社長からいただくまでになっています。また同時に研修を終了し、データサイエンティストとして認定された藤田萌さんをはじめ、これからも卒業予定の学生たちを多くの企業に紹介してゆこうと尽力しております。
https://www.gsais.kyoto-u.ac.jp/blog/2019/05/21/20190520
 
思修館卒業生の行き先を考える上で、国連、学術界などに引き続き、民間企業で適切な立場で就職いただくことは非常に重要な点であり、かつこれが我が国の今後の未来につながる唯一の道と信じます。特に大学院に進学する際の最大の悩みは、「果たして学位をとって就職できるのか?」という点であろうと思います。我々が力をあわせて、今までの常識を破って、「思修館で学位をとると、望んでいた企業・職種で、望んでいた待遇で、一層活躍できる」ということが広く認知されるように尽力してゆきたいと決意しているところです。
 
PS
さて、個人的には2018年にもう一つのチャレンジがありました。人工関節で20人組手に挑戦し、30年ぶりに空手の帯に一本の金色のラインを増やすことができました。ちょうど2016年に京大空手同好会が団体優勝した時の写真が出てきたのですが、杖をつきながらの姿で、よく自分が前で指導できるまでになったな、と我ながら感動しています。その空手関連で、アートイノベーション研究会との共催で、土佐尚子先生、山口栄一先生らをフューチャーした「アート・武道・サイエンス」シンポジウムが6月8日に開催されることになりました。
http://www.envhazards.org/news/arts_martialarts_science/
 
2019年06月06日


Space Camp at Biosphere 2
(SCB2, February 2019)
 

SCB2での空手
 

日本地球惑星科学連合2019年大会
陸域海洋相互作用10周年記念セッションで、
NASA/GSFC Vladimir Airapetian博士を迎えて
(2019.5.29)
 

経団連会館で行われたCEO認定式での挨拶
(2019.5.20)
 

ケンブリッジ大学生存リスク研究センター
(CSER) にて。左からCatherine Rhodes博士、
Martin Rees男爵、関大吉さんらと。
(2018.9.14)
 

スタンフォード大学ホプキンズ海洋研究所にて
スタンフォード学部生相手に説明を行う
藤村奈々緒さんと、Barbara Block教授
(2019.2.24)

京都大学大学院 総合生存学館

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