概要

研究テーマ

社会・経済物理学,複雑系科学

キャッチフレーズ

複雑系を理解すれば世界が分かる

概要

経済や社会の様々な要因が絡み合うグローバル問題に取り組むには,複雑な社会現象を読み解くことが必須です。特に,複数の構成要素が相互作用を通じて個別構成要素が持たない全体的な性質を発現する系は,複雑系と呼ばれます。近年,複雑系をネットワークの視点からとらえることが経済や社会の科学的な研究における大きい潮流となっています。私は,複雑ネットワークの静的構造および動的特性を研究することにより,複雑系の本質を解明します。

研究の具体例

企業ネットワークにおけるリスク伝播

連鎖倒産は,図1(a)のように自己組織化臨界状態との対応関係がみられる典型的な非平衡現象である。日本の上場企業を対象に,上述の企業エージェントモデルを用いて,ある化学メーカーの倒産による連鎖倒産をシミュレーションした。 図1(b)の大小の丸印は企業を,矢印は販売した製品の代金支払いの方向を示す。図1(b)の中央の逆三角印が,最初のショックとして倒産を仮定した化学メーカーである。ほかの逆三角印は,同社の破綻により連鎖倒産した企業である。化学メーカーの倒産により,同社へ多額の製品を納入していた化学品商社が倒産し,その化学商社と取引のあった原材料を生産する比較的小規模の企業が続いて倒産した。最終的に,企業破綻の伝播は,株主資本が多く積まれた企業において止まった。

国際貿易ネットワークにおける景気循環の同期

ふたつの振り子時計を別々の柱に架けると,振り子時計は時刻を合わせても次第にずれていく(図2(a))。れらの振り子時計を同じ梁に掛けると,時計はいつまでも同じ時刻を刻み続ける(図2(b))。この現象は同期と呼ばれる。国際貿易ネットワークは同業種間の貿易額が大きく,金融サービス,エネルギー資源,材料,化学,電子機器,自動車などのコミュニティに分かれる(図3(a))。オーダーパラメータは90年年代後半には減少するが,2001年,2002年に急激に増加した後は1に近い値にとどまっている(図3(b))。オーダーパラメータが1に近い位置にとどまることは同期を意味する。GDPに対する貿易額は90年代後半から増加を続け,2000年代にはいって相互作用が閾値を越え同期現象を発現した。


再生可能エネルギー導入と電力系統の運用

東南アジアでみられる木にとまった蛍の集団の明滅の同期と恰も同じように,電力系統では発電機が同期している。温暖化ガス削減のために大量導入が検討されている再生可能エネルギーは図4のように出力ゆらぎがあり,発電機の同期に対する擾乱となりうる。電圧や周波数を一定に保つためには一定時間間隔での需給バランスが必要であり(図5(a)),バランスを取ることが難しい場合は広域停電をさけるために再生可能エネルギーの出力抑制が必要となる。2030年時点で東北地方に風力発電を大量導入(9GW)したケースでも,系統の広域運用(東京と東北の統合運用)によって出力抑制なしに系統連系が可能となる(図5(b))。


研究のインパクト

新興国の台頭を伴う経済のグローバル化を背景に,活力ある経済発展の一方で,間断のない金融・経済危機や,エネルギー・資源の有限性や環境破壊など,地球規模の複合的問題が顕在化しています。エネルギー,環境,人口,経済などに関するグローバル問題では,社会科学と自然科学の両方の要因が複雑に絡み合っています。しかし,今日,複数の学問,特に社会科学と自然科学を総合化する方法論が存在しないために,人類が直面するグローバル問題に対して解決策を見出すことができていません。この一点にグローバル問題の難しさが集約されていると私は考えています。社会・経済物理学,複雑系科学は,社会科学と自然科学を総合化する方法論の構築に向けた研究の最前線にあり,21世紀の新しい知的フロンティアです。

求める学生像

定性的・定量的な総合的研究を行って学位を取得して,国際機関,シンクタンク,企業研究所で活躍したいと希望される学生を募っています。特に,文理の壁を乗り越えて,国際的に活躍することに関心のある方を歓迎します。出身学部は文系・理系を問いません。

経歴

1989年九州大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。1989~1990年日本学術振興会特別研究員(東京大学原子核研究所)。1990~2011年株式会社日立製作所,2011年東京大学生産技術研究所特任准教授を経て,2012年より現職。この間,1997年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員,2009~2011年国際エネルギー機関(International Energy Agency)コンサルタント。おもな研究分野は,経済・社会物理学,複雑系科学,エネルギー安全保障,電力システム解析。

著書

近著として,『パレート・ファームズ-企業の興亡とつながりの科学-』(共著)日本経済評論社(2007年),『経済物理学』(共著)共立出版(2008年),The 7th Applications of Physics in Financial Analysis, Journal of Economic Interaction and Coordination, Volume 5, 2010(共編,2010年),The 7th Applications of Physics in Financial Analysis, Journal of Physics: Conference Series, Volume 221, 2010(共編,2010年),Econophysics and companies -Statistical Life and Death in Complex Business Networks-(Cambridge University Press,共著,2010年),『50 のキーワードで読み解く経済学教室』(分担執筆)東京図書(2011年)など。この他,査読付学術論文67編,特許36件,雑誌論文4編。